2014年6月号(第60巻6号)

温故知新

聖隷浜松病院臨床検査科 部長
米川 修

「先生無理です。第一、英語が話せません。まともな日本語自体が…」。2002年京都での国際臨床化学会でのこと。九州大学の濱﨑先生からround table discussionで何かを話せとのお達しへの私の即答である。結局、つまらぬ内容で顰蹙を買うより折角のご厚意を無碍に断る方が失礼と(勝手に判断し)、悩みながらも引き受けた。開発に関係した蛋白分画自動解析システムを紹介することとした。タイトルは、「the serum proteinelectrophoresis : its clinical significance?」。幸い、海外からの参加者からの評判がよく面目を施すことが出来た。外人相手に配布資料には「温故知新」「learn fromthe past」とアピールをした。遺伝子検査を始め最新の技術を駆使するのもいいだろう。最新の技術は、診断を効率よく迅速・的確にするに違いない。しかし、最新の技術の現場への導入には一定の時間・費用がかかる。恩恵を被る患者も限られてくる。検査の人間であれば最新の技術開発に心血を注ぐのは自明のことである。しかし、全員のなせる業でもなく、そうする必要もない。今ある有効技術に新たな焦点を当て診断に寄与することを再認識させるのも職分の一つであろう。
数少ない市中病院での専任臨床検査専門医で同士、戦友は少なくとも二人いる。まずは、天理よろづの松尾先生。天理での見学無くして当院での私はいない。もう一人は、名古屋掖済会病院の深津俊明先生である。名古屋という地理的条件、加えて、共に輸血部長の兼任との境遇から、頻繁に相談に乗って頂いた。愛知県の技師会の方々の一際勉強熱心なのは深津先生の指導の賜と確信している。技師の方に伺ったエピソードである。「たった一つの検査を選ぶとすれば何ですか?」深津先生は「蛋白分画」と即答したとのこと。「然り」ですよ、先生!
ホントに蛋白分画は奥が深いのです。見つかる病態はM蛋白だけではない!検体量・保険点数と患者には優しい検査です。この検査が有効利用されず激減している現実を惜しくも50代で鬼籍に入られた深津先生はあの世で嘆いているに違いない。患者に還元してこその検査室である。これを実践せずして検査室の存在意義はない。結局、検査室側は臨床側にも患者側にも義務を果たしていないのであろう。深津先生の「先生、お題目より実行だよ」とのお叱りが聞こえてきそうである。叱られることだけは避けるだけの努力はしているつもりですが…。今こそ一丸となって蛋白分画の有用性を臨床側へアピールすべき時ではなかろうか。