2013年12月号(第59巻12号)

福祉分野への挑戦

東京都済生会常務理事
港区立特別養護老人ホーム港南の郷 所長
髙加 國夫

定年を迎える年になると誰もがその後の進路について思案するが、筆者の場合は周囲からの声掛けもあり、いくつかの選択肢から関連施設の継続勤務を希望した。病院勤務一筋40年の人生を過ごしたせいか、少しでも社会に恩返ししたい、との想いで、第二の人生を高齢者福祉に身を置くことにした。「保健・医療・福祉サービスの提供」を法人理念に掲げ、医療と福祉の緊密な連携を特徴とする施設であったので、異業種ではあるが抵抗感なく受け入れることができた。しかしながら実際、中に入ってみると、高齢者、精神障害者など対象者は様々で、サービス提供体制の仕組みを理解するためには多くの時間と経験を積むことが不可欠であることを痛感させられた。折しも、行政の業務監査で「施設長資格について要件を満たしていない」と指摘があり、社会福祉学全域について学ぶことを余儀なくされ、1年間学び資格を取得した。医療の場で必要とされた臨床検査技師資格は看護師のように幅広い業務に適用される資格として位置づけられておらず、今後、保健・福祉分野へ興味を有する人の為にも教育内容を見直すなど、改善が必要と思われる。
さて、実際のサービス提供体制にあたっては、生活保護受給の問題や親の年金を当て込んだトラブルなど様々な社会的困窮を目の当たりにする。時には決して関わりたくない家族構成の内面にまで踏み込んで対応しなければならず、理不尽な要求を強いられることも少なくない。一方、多くの高齢者は病をかかえ、精神的、肉体的に厳しい状況下にある。居室やデイルームを巡回する度にいつも「お世話になりますね」と笑顔で頭を下げられる。その都度「いつまでも元気で居て下さいね」と労いの言葉を交わす。他の人からみたら他愛ない会話かもしれないが、高齢者が望む福祉の在り様を考える良い機会でもある。様々なイベントを介した家族との情報交換の場では感謝されることが多く、介護スタッフへの賛辞は「利用者のために何かをしてあげたい」という気持ちがより湧いてくる。検査技師時代に決して味わう事の無かった満足感を今、なぜか体験できていることが不思議でならない。
10年後、団塊の世代が高齢化社会に突入し、4人に一人が75歳以上のいわゆる後期高齢者となる。グローバル化が叫ばれている昨今、目前に迫った「高齢化社会への対策」をどう構築してゆくかが喫緊の課題ではなかろうか。私自身もどこまでこの分野に寄与できるか判らないが、これからも人間力を発揮しながら心の通う福祉を展開したいと思っている。今後、この道を歩もうとする後輩達のためにも適切なアドバイスができるよう精進したい。