2013年8月号(第59巻8号)

暑い夏の思い出

順天堂大学大学院 臨床病態検査医学 教授
三井田 孝

米国留学して2年目の夏、3週間かけて妻と二人でアメリカとカナダを車で回った。所属していたラボは、教授夫婦が二人で研究室で働いていて、長い休みをとりにくい雰囲気だった。旅行の途中でコロラド州アスペンで行われるシンポジウムに出席することを条件に、休暇の許可をもらった。旅行の計画を立てるため、妻は何度も全米自動車協会(AAA:The American Automobile Association)に通った。AAAの地図は、「ペーパー版カーナビ」と言える優れもので、これさえあれば道に迷うことはない。宿泊先は、すべて電話で予約した。私たちの車はフォードの中古車で、多少オイルもれがあった。修理工場で点検してもらい、準備は万全のはずだった。出発前夜になり、急に一つの不安が湧きあがった。私たちの車には、エアコンが付いていなかったのである。
私たちが住んでいたサンフランシスコは、近くを寒流が流れており、8月の平均最高気温は21℃程度しかない。真夏でも朝に暖房をつける日があるくらいで、エアコンのない車は珍しくなかった。しかし、少し内陸に入れば気温はみるみる上昇する。平地を走っている間は30℃以上に車内の気温が上がるのは避けられない。最短距離を走っても、バンクーバーまで2日はかかる。翌朝、夜が明けない前に目が覚めた。そこで、すぐに出発して昼過ぎには目的地へ着くことにした。出発時はあたりが真っ暗で車内もヒンヤリしていたが、夜明けとともに徐々に気温が上がった。最後は、車の窓を全開にしてフリーウェーを飛ばした。初日の走行距離は、確か800km以上だったと思う。宿泊先の部屋に入り、エアコンを入れた時にはさすがにホッとした。
その後の旅は順調で、カナダの4つの国立公園とアメリカの3つの国立公園を巡ってアスペンに着いた。帰りは、ソルトレイクを経由する別ルートで戻った。この時に決めていたのだが、日本で生まれた2人の息子には、この旅行で立ち寄った地名を名前につけた。いつかエアコンの効いた車で、これらの地を家族全員でゆっくり訪ねてみたい。