2013年7月号(第59巻7号)

油断大敵怪我のもと

西武学園医学技術専門学校 顧問
佐藤 乙一

事故は’11年10月19日(水)13時に起きた。「先生授業をお願いします」3年の学生が筆者を迎えに来た。急ぎ教室へと向う。これまでの教育評を聞くべく山をかけてみると、まあまあの答が返ってきた。「老人授業でも一応は受けているナ」と安堵する。国家試験対策だから気が気ではない。教室は5階だが、調子に乗り過ぎて足は屋上行階段へと踏み込んだ。学生は言った「先生授業は5階ですヨ」「ア!そうか。つい調子に乗り過ぎたナ」と急ぎ回れ右をした。右回りだから右足が軸になって体重がかかる。ここであってはならない事故が起きたのだ。原因は遠近両用のメガネ。下位は最強の度数。教卓に教科書を置き立位で見えるよう調整している。凸凹が平面に見えるので2段階段も1段に見えてしまう。1段降りのつもりが2段降りたから大変。ドカッとしりもちをつき、その反動で右側頭部をコンクリート壁に強打。嫌な音がしたのが気にかかった。失神なし。急ぎ教室へ。そして教科書を開き講義したとされるが3分程の講義内容は記憶にない。やがて吾に返って坦々と授業を行った。全学生の意見「大声で語調よく全く異常なかった」とのこと。2駒3時間を完全に消化し定時に帰宅、飲酒もした。だが気にかかり、翌日病院へ。CTで硬膜下血腫ありと診断。予感したとおり図星だった。
主治医の先生は言った「軽度の血腫だから吸収を待とう」と。先生はさらに言葉を続け「こういう血腫は今はいい。だが2千人に1人位2~3ヵ月後に出血してくる例もあるのです。突然強度の頭痛、メマイ、嘔吐などがでたらいつでも来てください」とも。かくて2~3週間に1回受診時のCTで血腫の陰影が吸収縮小していくのがわかる。だが、ただ1つ頭痛がしつこく残っており、首スジまで放散する。先生は「多分首のムチ打ちでしょうネ。長くかかりますよ」との宣告だ。時は過ぎ、このムチ打ちは除き血腫部分はほんの痕跡のみとなり、年末近い12月9日治癒判定が出た。そして90歳老人は今日も教壇生活と東奔西走を続けている。多きは1日に1万歩。