2013年3月号(第59巻3号)

全国衛生研究所見聞記の歴史と伝統

東海大学医学部 基盤診療学系臨床検査学 教授
宮地 勇人

旅先では、日常と異なる雰囲気に飲まれて珍事が起きる。秋色深まる中、モダンメディアの全国衛生研究所見聞記の取材で、探訪子として岩手県の盛岡駅に降り立った。「岩手駅には初めて来た!」と、見聞記で逸話の多い同行の編集子O嬢の大きな第一声。「岩手駅はJR在来線にあるかも知れない」と、返答に戸惑った。(後日調べてみたが、在来線にも岩手駅は存在していない)。早々に、逸話の片鱗を垣間見た。編集子の珍事件は続いた。探訪子の装いに「コート無しで寒くないですか?」盛岡に向かうコート姿の編集子S氏の第一声は、現地に到着すると自ら完全に忘れていた。小春日和の温かい盛岡で、コートを着ていたことを忘れ、さらに、どこに置き忘れたかも忘れていた。大慌てで捜し廻っていた。編集子の連続珍事件に、珍道中の予感がしたものの、微笑ましいエピソードは、探訪子として初めて取材に赴くにあたり、緊張感を解すのに大いに助けとなった。
編集子は本来の役割でも大いに活躍戴いた。編集子には、取材の事前準備(調査、連絡、調整)に始まり、取材時の記録(写真撮影、音声録音)、事後の見聞記記事の作成、編集において、多大な御尽力を戴いた。全国衛生研究所見聞記シリーズは長い歴史があり、岩手県は、半世紀前に故小酒井望先生が岩手県衛生研究所を訪問されている。当時の見聞記には、付記として「“かんじん”の編集子は小生に同行しなかった。したがって、小生は写真まで撮って来なければならなかった」とつぶやきが記述されている(元祖ツイッター?)。半世紀後の今回の訪問では編集子は対照的な活躍を見せた。多少伝統が守られたようで、“かんじん”の一部場面で編集子は仕事を忘れて写真を撮り忘れていた。探訪子はシャッターチャンスを逃さず、何枚かの貴重な写真を見聞記用に提供でき、編集子の助けとなった。
編集子の段取りの良さのお陰で、探訪子として初めての見聞記取材は予想以上に充実したものとなり、首尾良く役目を果たし終えた。終始、御支援戴いたことに心より感謝を申し上げたい。編集子と探訪子の助け合いのもと見聞記の歴史は、次の半世紀も新たに積み上げられていくと思うと感慨深い。(本号「全国衛生研究所見聞記 其ノ十四岩手県環境保健衛生研究センター之巻」参照)