2012年5月号(第58巻5号)

写真の魅力

東海大学名誉教授
金田 良雅

定年後に暇になったら写真を本格的にやろうと決めていました。それは写真を撮ることは簡単だし、カメラの発達も著しく誰でもシャッターを押せば写ると考えていたからです。ところが、写真教室へ行き、第1 日目から衝撃を受けました。自動露出で撮影し、少しは自信のある作品を持参しましたが、露出不適切との指摘を受けたのです。教室ではポジフィルムで撮影したものを先生が評価することになっています。カメラの自動露出はネガフィルムを基準として露出の設定がされ、ポジフィルムでは、フィルムの感光剤などの違いにより露出はオーバーになってしまいます。そんなことも知らずに写真をやってきたという迂闊さに驚かされました。カメラ機能の中に露出補正という機能があり、これを利用してポジフィルムの適正露出に合わせることが必要でした。オーバーの写真では白色が出ず、抜けてしまっているということです。フィルム上に色のデータが記録されていないということになります。アンダーの写真の方がデータは残されていてプリントの時に加減すれば映像として表現できるわけです。一方、オーバーが必ずしも不適切とはならない場合もあります。花などを撮るときは少しオーバー目の方が幻想的な効果を表現でき適切になります。撮影者が求める表現を実現するには経験と勘が必要となる訳です。
最近では、デジタルカメラを使用するようになりました。これまではフィルムで撮影したものより深みがないとされていましたが、画素数も飛躍的に増加して受光面の構造も改良され深みも出てくるようになりました。ハードの発達には目を見張るものがあります。しかし、カメラが測定する露出は、全視野的に測定し平均的な数値が求められるので、その場面での適正な露出とはならないことがあります。露出の面では相変わらず苦闘を続けています。
機械的な機能が進歩しても撮影者が意図する写真を作るためには人間の努力が要求されています。人間が主役を演じる写真に魅力を感じ、奮闘を続けているところです。