2012年2月号(第58巻2号)

近所のぶらり旅の醍醐味

東海大学医学部 基盤診療学系臨床検査学 教授
宮地 勇人

近所の名所は、いつでも行けると思っている内に、訪ねる機会を逸してしまう。知人から話題にされると、地元を語れない気まずさを感じる。近くの飯山(神奈川県)は、七沢とともに温泉で有名で、古寺やハイキングコースも知られている。飯山観音は、真言宗の寺で正しくは長谷寺という。かながわ景勝50選の地でもある。近くに住むため、いつか訪れてみたいと思っていた。正月休みの最終日、夕食前の買い物へ行く途中に、下調べにとぶらり寄り道してみた。
飯山観音にお参りし、境内の鐘を撞いて戻ろうとした夕方5時過ぎのことである。登山靴を履き、ストックを持った夫婦が「白山頂上へ20分あれば登って来れる」と、観音堂の裏側から山道に向かった。そんなに近いのであればと、我々夫婦も急遽、白山頂上を目指した。イノシシやシカなど獣避けのフェンスの錠を開けて急勾配の男坂を登った。途中、町中からのアクセスの良さか、ジャケット姿の中年男性とすれ違った。男性は、「黄昏時の山が最も奇麗な風景に出会える」と教えてくれた。なるほど、夕焼けに続く遠い空の下に、湘南、相模湾や江ノ島までの絶景を眺望できた。山頂に到着し白山神社をお参りすると、夕闇が迫っていた。見下ろすと夜の町灯りがとても奇麗であった。帰りは緩やかな女坂を下ることにしたが、夜景を楽しむ余裕は直ぐに消えた。緩やかな下り道は長く、やがて真っ暗となった。足下が見えない不案内な道は歩きに難渋した。山の夜は急に冷え込む。近所の散策中に遭難する訳にはいかないと暗闇を必死に歩いた。獣避けのフェンスの先に、観音堂の小さな明かりが見えた時は、とても明るく温かく感じた。獣の世界から人間の世界に戻れた!と安堵した。夜の境内と参道は、提灯の明かりで幻想的であった。
近所の寄り道では、1時間あまりの短い間に人々とふれあい、自然や光景に感動し、スリルを経験した。まさに山あり谷あり。ネットで調べると、「簡単なハイキングコースであるが、登山靴、飲料の確保を勧める」とある。準備と計画性も大切であるが、近所をぶらりと散策すれは想定外の経験の醍醐味もある。同じ近所でも季節折々に味わいと新たな発見がある。海外旅行や遠出も良いが、「安・近・短」の近所のぶらり旅も良い。「安」価だけでなく、「安」全も心掛けたい!