2010年3月号(第56巻3号)

気骨と時代環境

元 近畿大学医学部臨床検査医学 古田 格

幕末から、明治、大正、昭和、平成と変わり、社会環境や生活様式などにも想像を超える変化が見られている。同様に、人のあり方にも変化があり、時代と共に勤勉、忍耐や礼節を重んじた日本人らしさが失われて、人間形成の糧とされた滅私奉公なる言葉も忘れられてしまった。さらに、集団よりも個人の成果が問われる時代になり、人間関係の絆が失われて、協調性や思いやりが無くなっている。
現在、NHK大河ドラマの竜馬伝では、幕末動乱期から明治維新に向かう時代の人間描写がなされているが、封建時代の身分制度のある厳しい環境に身をおくことで、各自が厳しく鍛えられた。坂本竜馬は土佐藩の下級武士であつたが、理想とする新しい世界を求めて脱藩し、動乱の時代を信念と気骨でもって行動し、幕藩体制を崩壊させる薩長同盟の礎を作り、短い人生ではあったが、新しい日本の夜明けを作った。
気骨とは、広辞苑では自分の信念に忠実で容易に人の意に屈しない意気(気概)とされる。自分の意思で信念をもって行動し、意に反する外部圧力に対して抵抗することは、容易なことではない。自ら逆境に身を置き、多くの辛酸を体験しながら、体得するものであろう。
明治元年(1868年)から140年以上が経過したが、戦争や経済恐慌もあり、歴史的にも類を見ない波瀾の多い時代でもあった。第二次大戦では国土は焦土と化したが、気骨のある先人達のがんばりにより、戦後は世界に類を見ない見事な戦後復興を成し遂げた。昭和から平成へと時代は変わったが、社会の活気が失われ、斜陽の陰りが感じられる今日である。それは、高度経済成長もあり、最低限の衣食住が保障され、恵まれた環境にどっぷり浸かったことから、人々の危機意識や勤労意欲が失われて来たためである。国家の盛衰も民意の低下に起因するのが歴史的な事実であり、低迷するわが国の社会や経済を活性化させるカンフル剤が必要になっている。次代を担う若人には厳しい時代の到来に備え、苦境を耐え抜く気骨を養ってもらいたい。