2008年3月号(第54巻3号)

臨床検査について思うこと 回顧と近況

長崎国際大学 薬学部 教授
九州大学名誉教授 濱崎 直孝

福岡大学と九州大学において臨床検査医学を担当し、大学病院検査部の運営に約20年間に亘って関与させていただいて、一昨年3月で九州大学病院検査部長を退任させていただきました。その後、長崎国際大学に新設された薬学部で、臨床検査の講座研究と薬学生の講義を担当させていただいています。これまで医学部以外で教鞭をとったことがないので、薬学部の学生への教育は、医学部の学生や大学院生に教えるのとでは、少し違うように対応すべきではないかと模索し戸惑ってもおりますが、それでも相変わらずのマイペースで楽しみながら大学生活を送っております。昭和の終わりの頃、突然、領域外から臨床検査医学に、検査部長として病院検査部の運営も合わせて関与するようにと命じられた時は少なからず戸惑いがありました。しかしながら、医療を経験ではなく、可能な限り科学的(医学的)にやりたいと考えておりましたので、臨床検査医学領域は願ってもない領域であり、それからは、あっという間の20年でした。

臨床検査医学にとって、昭和の終わりから平成にかけては、逆風の時代が既に始まっていた時期であったようです。保険点数改訂のたびに起こる検査点数の切り下げ、病院検査部検査の外注問題や検査センターとの関係、幾つかの大学医学部に於いて臨床検査医学講座が消滅したことなどなどです。これらの出来事は現在に至るまでも続いている出来事ですが、世間に疎い私は、このような逆風を逆風と感じず、臨床検査医学を科学的医療の本道だと信じて20年間過ごしてきました。お蔭で、ピロリに感染しているにもかかわらず胃潰瘍にもならず、たいして白髪も増えずにおります。

振り返ってみますと、福岡大学時代の臨床検査は、自動分析システムの総仕上げの時期であったようです。まだ、検査に関して何も知らない状態での私の最初の仕事は、生化学自動分析機を日立716から736へ入れ換えることでした。日立716はまだ牧歌的な臨床検査分析の匂いが残っている機器でしたが、736は今日の自動分析システムの切掛けとなった機器でその後は皆様御承知の通りで、現在の素晴らしい自動分析システムが完成し・普及いたしました。私立大学で新しい大学病院検査部と国立大学で古い大学病院検査部を経験できたことは、それぞれに検査部運営方針に特徴があり、2倍に検査部運営を楽しむことができました。

今日では、臨床検査測定値を日本全国共通の基盤で標準化し分析してゆくような議論が盛んになされるようになりました。この議論は世界的な規模での標準化も念頭に入れたもので、20年前には現実的にはなりようがない「机上の空論」といわれかねない話題でした。このような臨床検査の標準化が整備されて初めて科学的な医療の道が開けることになります。臨床検査医学領域に幸いにも関与させていただいた恩返しの意味も含めて、これからも臨床検査標準化の整備に努力をしてゆこうと考えながら、薬学部の学生さんと楽しく日常を過ごしております。