2008年3月号(第54巻3号)

色紙に描く季節の草花

椿

椿は冬に花が咲くものと思っていたが、実は2月から3月が花時である。椿には愛好者が多い。花も葉も 厚く色艶がよいので、一枝切って床の間に生けると部屋全体が華やぐ。

椿には種類が多い。集めだすときりがない。また生えやすく育ちやすい。私の家の狭い庭にも、意識して植えたものが5本ある。まず、八重の赤い椿が2本、15年前に家を新築した時、植木屋が、通りから家の建物を見えにくくする目的で植えた。毎年たくさんの花を付け、あまり風情のある花でないので、「家かくし椿」と悪口をたたいていたが、近くの床屋の主人が「お宅の椿は見事ですね」と感心してくれてから見直すようになった。次の1本は太郎冠者の名がある侘助、これはもう20年位前に三越デパートの園芸部で小さい苗を見かけ、愛らしいので買ってきて育てているうちに、今は高さ2メートルの大木になり、毎年よく花をつける。次に卜伴(ぼくはん)は、妹の家に見事な鉢植の大きい木があったのを見て、小さい苗を買ってきて育てた。いい茶花になる。最後が天ヶ下である。広い神代植物公園椿園の中の数ある椿の中で、最も艶やかで魅力のあるのがこれである。真っ赤な花、それに多寡さまざまに白が混じって入り微妙な色合いを見せる。三鷹市農協に行った時この椿が目に付いたので、早速買ってきて庭の雪見灯篭の傍に植えた。

肝心のこの色紙の絵は、加茂本阿弥の大輪の白椿である。描いた場所は、神代植物公園の中のまた別の場所で、なじみのところに一本だけあって毎年いい花が咲いている。

長年椿を見、椿を描いているうちに、自然にいろいろな椿の種類を知り名を覚えた。

朝翳や庭の椿につがいどり

絵とエッセイ 藤本 吉秀

大正15年(昭和元年)生まれ。昭和の年号がそのまま年齢になった。

<職歴:内分泌外科医>
もと東京女子医大内分泌外科教授。1987~1989の2年間国際内分泌外科学会会長を務めた。
今は癌研有明病院、日本赤十字社医療センター、調布東山病院で甲状腺診療をしている。

<絵の略歴>
昭和59年、八丈島から贈られた黄色のシンピジウムがとても美しいので色紙に描いてから、季節の草花を色紙に描くのが趣味となった。平成10年、柏市で甲状腺外科検討会がひらかれた時、会場の近くの画廊で色紙の個展をした。
その後、松下黄沙(Group 82)について墨絵三昧。
2人展(平成14年)、12人展(平成16年)をはじめ、春、初夏、秋にそれぞれ各種グループ展に出展。

<運動>
ずっと以前のことになるが、学生時代、一高、東大を通してボートを漕ぎ、昭和24、25年8人で漕ぐエイトで連続全日本選手権制覇。

はじめの1年間は、「色紙に季節の草花を描く」をテーマにして出します。
次の1年間は、「墨画にのめりこんで」として、風景、植物、仏像など何でも取り上げて描きます。