2008年1月号(第54巻1号)

アフリカ・ケニアで臨床検査 ~東洋医学的未病の世界か~

(財団法人)緒方医学化学研究所 常務理事 只野 壽太郎

今年9月、ケニア・ナイロビ近郊・プムワニ地区のスラムでNew York Inada-Lange Aids 財団のAIDS診療キャンプに参加しました。このキャンプは7年前から始まり、毎年3月と9月に日本とアメリカから医師、看護師、薬剤師等がボランティアで参加するもので、今年は20人の大部隊になりました。

プムワニはケニア最大のスラムで電気、水道、下水も無い想像を絶する劣悪な環境下に数万の人達が暮らしています。勿論医療施設などありませんから、我々の仮設診療所には日の出から日が暮れて物が見えなくなる迄、AIDS患者だけでなく、一般の人達が絶え間なく押し寄せて来ます。

さて、此処のAIDS患者には問題もあります。それは、世界各国のNPOが治療薬を無料で闇雲に配るため、貰ったら全部一気に飲む人、貯めて置いて売る人など全く服薬のコントロールが出来ない状態で、昨年度は耐性ウィルス出現率が25%を超え、このウィルスが世界中に広がる恐れがあることです。

一方、電気が無いため今迄AIDS薬の副作用等の臨床検査は出来ませんでしたが、今回日立S40卓上自動分析器と燃料電池を持ち込み検査したところ、薬の副作用を示すデータは皆無でした。また、一般診療では皆自覚症状を訴えて来ますが、この人達にも検査データで異常を示す人は殆ど居ませんでした。

どうも此処の人達は、極めて微妙な体内の異常を感じる能力があるようで、「自覚症状は有るが検査に異常なし」のまさに東洋医学的未病の世界でした。

現在の臨床検査は、「自覚症状は無いが検査に異常あり」の西洋医学的未病には有用ですが、東洋医学的未病には全く無力で、1998年NIHは国立相補代替医療研究所を作り、冷え、こり、疲れ、不快感等の不定愁訴検知器の開発に取り組み始めたようです。

我々も既存の臨床検査の世界に安住することなく、次世代の臨床検査として東洋医学的未病の検知・解析が可能な分析器を開発出来たら素晴らしいだろうと思いながらナイロビを後にしました。