2007年10月号(第53巻10号)

ミュージカル俳優と臨床検査のプロ

京都府立医科大学臨床分子病態・検査医学 准教授 藤田 直久

この20年間ミュージカル鑑賞が私の趣味となっている、と同時に自分の仕事を見つめ直す機会ともなっている。劇団四季のミュージカル「キャッツ」の舞台をはじめて見たときの感動が忘れらず、以来ミュージカルに完全にはまってしまった。日本での鑑賞は200回を超えている。海外でも訪問先でミュージカルをやっていないかをチェックし、インターネットでチケット予約をする。

舞台での俳優たちの歌とダンスはすばらしく、さすが「プロ」だと感じる。この感覚が私は好きなのである。この舞台のために練習を重ね、そして舞台に立つ。芝居やダンスの上手下手は見ればわかるし、歌は聞けばわかる。こんなわかりやすいものはない。逆に舞台上の俳優にとって明快に評価されるという点でこれほど恐ろしいものはない。そして、俳優たちの演技を見ながら、自分の日頃の仕事を振り返る。果たして、自分は臨床検査専門医として、検査部の部長として、「臨床検査のプロ」として恥じない仕事をしているのか?日々研鑽し自己を磨いているのか?手抜きはしていないか?などと自問自答する。そして、まだまだ十分ではない、もっとやることはあるのだと舞台を見ながら思う。「プロ意識」をいつまでもなくしたくない、この仕事を終えるまではそう考えている。

マスコミで手抜きによる事故が報道されるたびに、事件を起こした当事者達のプロ意識に疑問を投げかけたくなる。当院の臨床検査部では「検査のプロ集団」により検査がおこなわれ、結果が報告されている。決して手抜きはしないし、日々自己研鑽を積んでいる。もしその努力を怠たれば、その結果は見えている。舞台なら俳優交代を演出家が告げる、検査なら外部委託を病院長が決めるのである。臨床検査という舞台での観客は、結果を受け取る医師や看護師、そして医療を受ける患者さん達である、これらの観客にプロとして恥じない仕事を見てもらうことが必要だし、目に見えるアピールも忘れてはならない。

臨床検査ニュース、365日の感染症検査、患者のための臨床検査相談室、感染症検査・感染対策の出前講義など、我々は様々なことに挑戦し、技を磨いている。「患者のための臨床検査」と「臨床現場で必要とされる検査部」を常に考えながら努力することが、検査という舞台でプロとして生きてゆくための使命だと心から思っているからである。