2007年10月号(第53巻10号)

ヒマラヤの詩―山と花に魅せられて

ノビレダイオウ(Rheum nobile)

今回のトレッキングのルートはあまり確立されておらず、山の会の仲間の一人が、渡辺一枝さんの旅行記を読んで、そこには多くの種類の花が咲いているので是非行きたいということで計画をたてました。資料として、立教大学チョモロンゾ(7,816m)登山隊・学術調査隊1993年の報告書を参考として、チベット側北西面に位置するカンシュン谷を選びました。またチベットに詳しい方を紹介していただき、ガイドをお願いしました。

スタッフの中に近くに実家がある方がいて、私たちを家に案内してくれました。家は密集した中の奥まったところにあり、狭くて急な階段を3階まであがると居間があって、ベッド・囲炉裏・台所などが揃っていました。両親や兄弟たちがたくさんいて、知らせを受けていたのか、バター茶で歓待をしてくれました。

バター茶は、チベット族をはじめ、モンゴル族、アジアの遊牧民族の飲み物として知られており、発酵した茶葉を煮出し、これにヤクや羊から作ったバターと塩を入れて攪拌したものです。チベットの人々は、一日にお茶を何杯も飲みます。それは水分を補給することと、高地生活で不足するビタミン、脂肪分、蛋白質などを補うための、欠かすことの出来ない栄養源になっているからです。しかしいくら勧められても、とても飲めるものではなく、二口三口で申し訳ないけど残してしまいました。慣れると病みつきになる人もいるそうですが…。お礼を言って家を後にしました。

ノビレダイオウを探して更に奥へと進みます。スタッフの一人が見つけて採って持って来てくれました。私たちは慌てて、採ってこないで有る場所を教えてくれるようにと言いました。しばらくして私たちも見つけ、はじめての出会いに感激しました。標高は約4,200m、高さは約80cm位で岩礫斜面に生えていました。

ノビレダイオウは標高4000メートル以上の高山に生える、タデ科ダイオウ属の植物。雪解け後に花茎の芽がキャベツ状にふくらんだ後、外側を包む緑色の葉が展開します。花茎は分岐せずに直立し、高さ0.7~2.0m、苞葉には有害な紫外線を吸収するフラボノイド色素があります。葉緑素はなく、半透明で、太陽光を透過し、内部の気温を外気温より5゜Cほど高めに維持するといいます。苞葉の腋ごとに数本の円錐花序がつきます。どこからか一人の子供がやってきて、私たちの前で、苞葉を開いて中の茎を食べ出しました。私も貰って食べてみたら、酸っぱくて、丁度スカンポの様な味がしました。ネパール東部~ブータン、チベット南東部、雲南・四川省に分布しています。

(撮影:2000.7 チベット、カンシュン谷)

写真とエッセイ 後藤 はるみ

1938年 東京に生まれる
1963年 東京理科大学理学部卒業後、代々木病院検査室勤務を経て東京保健会・病体生理研究所、研究開発室勤務
1978年 東京四谷の現代写真研究所に第3期生として、基礎科、本科1、本科2、専攻科、研究科で7年間写真を学ぶ。
1984年 写真家・竹内敏信氏に師事、現在に至る
1999年 病体生理研究所定年退職

・日本山岳会所属 ・エーデルワイスクラブ会員
・全日本山岳写真協会 会員
・写真展「視点」に3回入選
・全日本山岳写真協会主催の写真展に毎年出品
・その他、ドイフォトプラザ等でグループ展多数