2007年7月号(第53巻7号)

車窓

自治医科大学 臨床検査医学 山田 俊幸

甲府であった会の帰りに、小海線というローカル線にはじめて乗ってみた。小淵沢を出発したワンマン列車は急カーブして八ヶ岳の南斜面にとりつき、その南側をぐるりと廻り、野辺山という標高最高位駅に着く。そして一気に下り、それまでの高原リゾートとはがらりと変わった雰囲気の千曲川の谷、信濃川上(かわかみ)に着く。列車はこの川に沿ってしばらく進み、やがて平地が拡がるあたりで川から別れ、新幹線駅である佐久平に着く。

八ヶ岳リゾートの水は太平洋に流れるが、その先の小海線沿線の水ははるか遠い日本海まで流れる。水の流れとしては日本一長い旅になる。下流の信濃川が潤す平野で生まれ育ったものとして、その上流を見たいという想いがあった。出張のついでに達せられたのは幸運だった。将来チャンスがあればさらに源流のほうに足を延ばしたい。

旅の道中は車窓から見える風景とそれに関連したことを連想するのが楽しい。例えば東海道新幹線を頻繁に利用している人は飽き飽きしているかもしれないが、長い鉄橋で渡る有名な川、茶畑、工場などを眺めて飽きることはない。初めて乗ったときは通過駅の駅名も読み取れず、いったいどのあたりを走っているのかわからなかったが、自分なりの目印を設定し、なんとか位置確認ができるようになった。それにしても美観をそこねない程度のデュスプレイで新幹線客用になにか宣伝すると地域活性化になると思うのだが。

地図を持ち込んだりはしないし、連れがいることもあるので、その時疑問に思ったことは帰宅してから調べることになる。そんなことに何の意味があるかと言われればそれまでだが、趣味というものはそういうものだ。口はばったいが研究なども他人にあきれられるくらいのこだわりが必要と思っている。

ところで移動にあたっては窓側の席に座るのが重要だ。夢中になっていると列車やバスでは横方向、飛行機では下方向を凝視するので首が疲れることがある。日が暮れた後は人家の灯かりをぼんやり眺めながら缶ビールを飲む。旅はいいものだ。