2007年4月号(第53巻4号)

Deep Impact

順天堂東京江東高齢者医療センター 臨床検査科 佐藤 尚武

「ディープインパクト」という名前の競走馬の話は、競馬にあまり関心のない方でも小耳にはさんだことがあると思う。2004年の暮れから2006年一杯まで現役生活を送った、日本で6頭目の三冠馬である。最上級カテゴリーであるGI競走7勝は史上最多タイであり、日本競馬史上における最強馬と讃える声も多い。30年を超える競馬観戦歴を持つ小生にとっても、最も印象に残る一頭であり、まさに彼の存在自体がdeep impactであった。

話は変わってやはり「ディープインパクト」という題名の、地球への彗星衝突をテーマにした映画があった。当時は20世紀末で、人類に対する神の警告を暗示するような内容の映画が多数上映されていた。神の警告といえば、近頃気になるのは地球温暖化に伴う異常気象の頻発であり、医療関連では「メタボリックシンドローム」であろうか。

「メタボリックシンドローム」は近年の医療やヘルスケアの領域で、ちょっとしたdeep impactを巻き起こしていると言えるであろう。「メタボリックシンドローム」は結局のところ、飽食、栄養過多によって引き起こされる病的状態と言える。人類を含む動物は、地球史における誕生以来ほぼ全ての時代を飢餓と闘って生きてきた。従って余分な栄養を効率よく蓄積できる個体が、生存には適していたはずである。現代人の大部分が、そのような特性を備えているであろうことは想像に難くない。しかし人類史上突如出現した飽食の時代は、この特性を凶器に変えたのである。栄養を効率よく蓄積できる個体は、現代では「メタボリックシンドローム」になりやすい特性を持つことになったのである。結果として、かつて生存には不向きであった栄養を蓄積しにくい少数個体が、現代においては「メタボリックシンドローム」になりにくいという皮肉を生むことになった。これを現代人の飽食に対する神の警告と感じるのは、恐らく小生だけではないだろう。

もちろん現代においても飽食の中に生きる人々(民族)は一部であり、多くに人々は飢餓の中で生きている。貝原益軒ではないが過食を慎み、粗食を楽しみたいものである。