2007年3月号(第53巻3号)

検査基準値に思う

順天堂大学浦安病院 臨床病理科 石 和久

私は、日頃検査基準値について疑問に思っている。私は病理医であるが、通常グループ分類などで診断の標準化に努めているが、経験と主観が左右されるため完全ではないのは理解して頂けると思う。しかし機械で行う血液生化学検査で、これが出来ないのはなぜなのだろうか?現在標準物質を用い大部分の検査はどの医療施設でも正確に測定されているが、一部の測定値、表示値および基準値が異なっている。少なくとも基準範囲および表記法程度は全国どこでも一緒にしても良いのではないだろうか。以前中国に行ったときは全国どこでも一緒であったと記憶している。

地域連携は急性期医療の中で必要不可欠のツールとなり、患者さんが医療機関の間を連携パスとともに移動する形が多くなり、昨年4月の診療報酬改正では地域連携クリティカルパスによる医療連携体制が評価され、次回の診療報酬改正では脳卒中、癌、心筋梗塞術後のフォローなどが挙がっている。これら疾患の患者が連携パスとともに紹介され他の医療機関で、迅速に診察するためには検査データーおよび判定するための基準値はどの医療施設でも一緒である必要がある。すなわち再検査を防ぎ、迅速に診断治療が受けられるということであるが、このことは随分前から言われているが十分には実現されていない。

昨年の日本経済新聞によると、経済産業省は今後臨床検査の基準作りに取り組み、検査機器を全国で統一して調整する仕組みを導入する方針を、また厚生労働省は健康診断の基準や、病院によって異なる血液・尿検査などの臨床検査の手法の統一に乗り出すとのこと。臨床検査にかかる費用は年間3兆円とされ、国民医療費の約一割を占め、この内約一兆円は重複検査とされ医療保険財政を圧迫する要因となっている。従って今後地域連携を強化し単位表記法、基準値の統一が必要である。

ただしこれらのことは日本が平和な証拠であるかもしれない。世界では、日々の暮らしも出来ず、満足な医療を受けられない人が多数いる。これらの人々にとって検査は無縁で、基準値どころの話ではない。私は基準値を見ると医療費が無駄となっている現実を、そして日本は平和だと思う。