2007年3月号(第53巻3号)

ヒマラヤの詩―山と花に魅せられて

ダウラギリとRhododendron

ヒマラヤトレッキングの中で、アンナプルナ山群はエベレスト山群と並んで最も人気のあるコースです。山名はサンスクリット語で、「アンナ」は「食料」,「プルナ」は「いっぱいにする」という意味だそうで、「豊穣の女神」あるいは「食料の支給者」ということになるそうです。アンナプルナとダウラギリ、この二つの8,000m峰を見渡す大展望の丘プーンヒルが、最高高度でも約3,200mと高山病が全く心配ないので、ヒマラヤの入門コースといえます。前回はまだ現役で、年末年始の休暇を利用したトレッキングでしたので、この時期の山々はくっきりと青空に浮かび上がり、神々の山そのものの見事な山岳展望が望まれました。3月半ばから数カ月、山々は春霞で眠く、花もシャクナゲ以外には殆ど見られませんが、今回はともかくネパールの国花であるというRhododendron,シャクナゲをぜひ見たいということで、2006年の3月、政情不安定でトレッカーが激減しているという状況にもかかわらず行ってきました。

ここを初めて訪れたのは27年前になります。沿道の村々を歩いていると、子供たちや村人たちが、「ナマステ!」と親しげに声をかけてきます。「ナマステ」とはネパール語でオハヨウ、コンニチワ、コンバンハ、サヨウナラと何にでも使えるとても便利な挨拶です。この一言で一気に打ち解ける面をもっています。しかし、現地の人は「ナマステ」を言うとき、必ずといっていいほど子供たちでさえ両手を合わせて合掌するのを見ると、ただの挨拶だけではなさそうで、そこにはもっと深い意味がありそうなのです。一説によると仏教の「南無阿弥陀仏」の「南無」も「ナマス」から来ているらしく、帰依、礼拝、敬礼といった仏教的な意味を含むらしいのです。厳しい環境で暮らしている山岳民族では、自然の恵みに感謝し、畏敬の念で全てに接して暮らしている事が窺われます。最近ではトレッカーたちが多く入っているせいか、この合掌が少なくなり、ただの挨拶にかわりつつあるような気がします。今回はそれほど標高が高くないので、あまり厳しさは感じられませんでしたが、標高5,000m近くになると、早朝、ガイドやシェルパたちが香を焚いてお祈りをしているところを何度も見かけました。

(撮影:2006.3 ネパール, アンナプルナ山群)

写真とエッセイ 後藤 はるみ

1938年 東京に生まれる
1963年 東京理科大学理学部卒業後、代々木病院検査室勤務を経て東京保健会・病体生理研究所、研究開発室勤務
1978年 東京四谷の現代写真研究所に第3期生として、基礎科、本科1、本科2、専攻科、研究科で7年間写真を学ぶ。
1984年 写真家・竹内敏信氏に師事、現在に至る
1999年 病体生理研究所定年退職

・日本山岳会所属 ・エーデルワイスクラブ会員
・全日本山岳写真協会 会員
・写真展「視点」に3回入選
・全日本山岳写真協会主催の写真展に毎年出品
・その他、ドイフォトプラザ等でグループ展多数