2006年3月号(第52巻3号)

アヒルが高病原性トリインフルエンザ ウイルスに感染したら・・・

東京都老人医療センター 稲松 孝思

この冬、トリインフルエンザの話題が姦(かしま)しかったが、当院のインフルエンザ対策も大分整備され、研修医たちに職員のワクチン接種を手伝ってもらった。時間が空いたときに、若い研修医と話しながら、ちょっとしたクイズを思いついた。『アヒルが高病原性トリインフルエンザウイルスに感染したら、体温はどうなると思いますか?』返事がないので3択を提示した。(1)37℃、(2)40℃、(3)43℃、研修医たちの答えは分かれた。

正解を言う前に、少しヒントを、・・・アヒルとカモの関係は・・・? アヒルの平熱は・・・? カモがインフルエンザウイルスに感染したときの症状は・・・? 読者の皆さんは、どう思いますか。

マガモのオスは青緑のビロード色の頭に、黄色の嘴、白いネックレスをした、美しい鴨です。メスは何の変哲もない茶色で、ガアガアとうるさくなきます。このマガモの突然変異のアルビノが白いアヒルです。マガモの姿をした青首アヒルというのもいます。マガモの丸々肥って肉のおいしいそうなやつや、卵をよく産むやつを選択して、2000~3000年前に家畜(家禽)化したのがアヒルです。アヒルは肥り過ぎて飛べなくなって、渡りをやめたマガモです。陸ばかり歩いていると体重がかかって、脚を痛めることが多いそうです。

トリの平熱については、孵卵器が37℃だから、ヒトとあんまり変わらないだろうという人と、もう少し高い気がするという人がいました。小学生のころ、ニワトリを抱いたことのある人が結構いて、そのときの印象が残っているようです。でも、平熱は何度と聞くと、誰も答えられません。ある本に鳥類の平熱を書いてあるものがあって、それを見るとおおむね40~41℃で、カモもその範囲内でした。ろくなものを食べていないだろうに大した熱効率です。保温のための羽が高性能なのでしょう。それでは、感染症を起こすと体温はどうなるのでしょうか。鳩を実験系にして体温の研究をされている研究者の話を聞いたことがあります。鳩にエンドトキシンを注射すると、43℃まで体温は上昇し、生き残ったやつは、障害を残さず、元の40℃まで戻るそうです。

あとはアヒルがインフルエンザウイルスに感染すると症状はどうかという話です。インフルエンザウイルスは、野生の鴨の腸管に常在するウイルスであるということは今や広く知られ、下痢や発熱などの症状もありません。アヒルはカモの一種ですから、インフルエンザウイルスに感染しても発症しないはずです。そこで、アヒルの病気について調べてみました。アヒル肝炎ウイルス(Picornaviridae)、アヒル腸炎ウイルス(Herpesviridae)、アヒルペスト(Pasteurella)、サルモネラ症などがありましたが、インフルエンザウイルスによる病気は記載されていませんでした。

ようやく結論にたどりつきました。『アヒルが高病原性トリインフルエンザウイルスに感染したら、体温は40℃のままである』というのが正解ということになります。

なお、この文章はエッセイであり、学術論文ではありません。単なる思いつきで、若干の文献的考察はありますが、実験的裏付けはありません。念のため。