2005年12月号(第51巻12号)

究極の情報漏洩対策とは?

昭和大学横浜市北部病院 木村 聡

個人情報の流出が後を絶たない。法整備が行われたが、いまだ恐喝まがいの話を聞く。医療機関は個人情報の宝庫。幸いわが国では、従来より守秘義務のモラルに守られ、一時の米国に見られたような極端な流出(癌患者に葬儀会社のパンフレットが届くなど)は見られていないようである。だが、安閑としてはおられない。

現在の医療機関では、コストダウンの掛け声のもと、数多くの業務が「外注化」されている。これが終身雇用であれば、病院職員はみな運命共同体。沈むときはもろともであり、むやみに自らの職場を不利に貶める動機付けは働きにくい。しかし、職場の人間関係が以前にくらべて希薄となり、加えてアウトソーシングの嵐。病院では、事務、清掃、給食、警備に留まらず、コンピュータシステムや臨床検査部までも外注化が進んでいる。これが特殊技能を求めてのアウトソーシングならばまだよし。しかし人件費削減だけが目的で行われるアウトソーシングはどうであろうか?「同じ仕事で給与が異なる」状態は勤労意欲を削ぐものであり、職場モラルに悪影響を及ぼすのではないか。ここにリスクの生じる隙がある。

保険医療の縛りが厳しさを増し、医療機関の経営は悪化している。その一方で民間会社による病院の系列化が密かに進行しつつある。企業が病院を経営し、患者サービス向上にノウハウを生かすのは望ましいかもしれない。しかしコスト削減目的で、院長はヘッドハンティングの三年契約、事務員はじめ医師・看護師までもが全員派遣社員、なんていう病院が現れるかもしれない。その際一番心配なのは何か?それは、個人のモラルだけにしがみついた情報管理ではなかろうか。罰則規定を設ければ済む話ではない。職場への帰属意識が希薄となり、患者サービスも表層的なものとなろう。どこかで「運命共同体」の意識が持てなければ、高い倫理性は保証されないのではないか。少なくとも現場の第一線で働く者たちに恨みを買うような体制は避けるべきである。

究極の情報漏洩対策、それは派遣社員を含めた全従業員が「運命共同体」意識を持ち、等しく充実感を享受できる職場にすることである。皆さんがんばりましょう。