2005年7月号(第51巻7号)

世界禁煙デーに寄せて

香川県立中央病院 中央検査部 桑島 実

5月31日は世界禁煙デー、6月6日までが禁煙週間であった。これを機会に当院でも敷地内全面禁煙となった。禁煙が社会常識となりつつあり、愛煙家にとってはさぞかし肩身の狭い世の中であろう。このように冷ややかに言えるのも筆者自身、タバコを吸わないからのこと。実は20数年間、数え切れないほど禁煙を試み、禁煙ほど簡単なものはないとうそぶいていた一人であった。10年前の元旦、さしたる動機もなく、なんとなく完全禁煙を決めた。しかし、それからが大変であった。どうしようもない苛立ち、不安、焦燥感に加え不眠に悩み、家族に気味悪がられながら夜中に座禅を組んでも治まらず、夜間や休日には目的もなく長時間徘徊したり、近くの山に遮二無二登ったりもした。タバコが吸いたいという渇望感よりむしろ、吸ってはならないという脅迫観念の方が強かった。苦し紛れに禁煙に伴う苦痛を精神医学的に取り上げた論文はないか病院図書室で調べまわった。ところがこの種の研究は意外に少なく、入手できたのは西本雅彦他:ニコチンの精神生理学的研究.精神医学35:991-997、1993のみであった。しかし論文の考察にある退薬症候(退薬症状)はまさに自分の苦しみと全く同じであるという発見は救いであった。それ以後、退薬症状は次第に消え3年を過ぎた頃からは、タバコの匂いに対して異常に敏感となり、ヘビースモーカーの衣服にしみ込んだ匂いが気になり、新幹線の喫煙車の通路は息を止めて通り、道端に捨てられた吸殻を見ると無性に腹が立つようになった。今から思うと、タバコを吸っていたときは無神経にも随分、周りの人々に迷惑をかけ環境を汚染させていたと反省している。世界禁煙デーに限らず厚労省も医師会も大いに禁煙をすすめていただきたい。ただニコチンパッチのような姑息的手段だけでなく退薬症状を軽減し同時に嫌煙となる治療薬の研究開発にも力を注いでいただきたいものである。栄研化学さん、いかがですか?