2005年1月号(第51巻1号)

医師本来の診療能力を生かす絶好のチャンス

岡山大学大学院 医歯学総合研究科 生体情報医学 小出 典男

20数年前のことである。岡山大学病院で初めてHIS(病院コンピュータシステム)を導入するにあたり、私は最初に稼動させる検査システムの立ち上げを担当した。院内を回り、オーダリングシステムの説明をして回ったときのことである。どの部署に行っても「システムが止まったらどうしてくれるのか?検査なしで診療はできない」などの質問やクレームが相次いだ。私はこれに対して「システムが止まったら再立ち上げまでしばらく待つこと、システムが止まったときこそ医師の本来の診療能力を生かす絶好のチャンス」との説明をして回った。大きな不安のなかで実際の立ち上げ時には大きなトラブルもなく、おおいに安堵したことを最近しばしば思い出している。

さて、話し変わって4 ~5年前から私はミャンマーにおけるC型肝炎の予防対策事業に加わって活動している。国として売血を廃止して全面的に献血に移行させること、献血血液には新たにHCV抗体検査を導入することなど一定の成果を挙げてきた。事業の一環としてウイルスマーカー陽性の慢性肝炎の治療にも関与せざるをえなくなってしまったのである。腹部超音波検査ができないのはまだしも一般肝機能検査も簡単にはできないこの国で、最も安価な瀉血療法を現在進行中である。私が持ち込んだ用手法でのCBCとAST/ALT検査、フェリチン検査のみで瀉血療法を実施しなければならないのである。訪問するたびに大勢の患者が待っているし、スタッフは私の発する瀉血療法継続か否かの答えを待っている。まさに「医師の本来の診療能力を生かす絶好のチャンス」ではあるのだが、あのときの勇敢な発言がこんな形で自分に振りかかってくるとは、ああなんとも恨めしいことか。しばしば20数年前のあの言葉を思い出すこの頃である。