2004年9月号(第50巻9号)

施設間差

財団法人 浜松市医療公社 理事長
菅野 剛史

「それぞれの施設で、測定法が異なり、検査の値が違うから、それぞれの病院で、その施設の正常値が異なることを前提に結果を評価するように!」こんな教育が医学生に行われ、若しかすると今でもこんなことを教えている先生がいるかもしれない。素直な学生から、「どうして施設間差をなくすことが出来ないのですか?なくなればお互いに、どんなに楽になるか先生方は考えているのでしょうか?」と聞かれたときに、今までの計測値には伝統があるからと答えた瞬間に「素直になれない自分に腹が立った。」

1968年に、当時済生会中央病院の副院長をしていた堀内先生から「血糖の測定値に2大主流があって、病院間で困っている。アメリカで酵素法というのが出て、正しく血糖値が測定されると聞いたが、この測定法を利用して、日本の血糖値の統一を図りたい。君は医化学で酵素を専門にしていると聞いたが協力してもらえないかね?」と聞かれ、グルコースオキシダーゼ法と取り組んだことを思い出し、実際に施設間差の解消に取り組んだ経験があったことに目が覚めたのである。

日本医師会の精度管理調査委員に任命されたのは、1989 年であった。当時の酵素活性の施設間差は変動係数で10%を超えていた。標準測定法を提案し、標準的測定法で測定することと、国際単位を利用することを推進した。一方、標準物質の仕様を臨床化学会で作成し提案し作成を推し進めた。そして、標準物質は日本認証酵素標準物質としてJCCLSから市販された。これを契機に酵素活性測定の施設間差は減少の一途をたどり、今日では施設間差は2%を切ってしまったのである。施設間差は解消した。ようやく素直な学生に「今は、酵素活性測定では、施設間差は解消し、基準範囲を統一することも可能になったよ。」と胸を張っていえる。