2004年9月号(第50巻9号)

山のスケッチ

初秋の藪沢

ペン+水彩(23.0 × 19.1cm)

藪沢は仙丈岳の藪沢カール(圏谷)に源を発し,戸台川に流れる沢で,仙丈への一般的なルートのひとつである。

沢に沿って山に登るのは楽しい。尾根道は眺望は良いが,大抵は炎暑にあえぐ急坂である。涼しくて水に不自由しない沢筋の道は,眼を楽しませてくれる花も多い。

9月も中旬を過ぎて,もう山には秋が来ている。谷の両岸の色づきはじめた草もみじは,まだ残る緑と黄土色の混色で美しい。一面の錦繍も良いが,私は夏の名残りの同居する初秋の山が好きだ。気の早いカエデやナナカマドがもう色づいている。紅葉は前年の降雪量,夏の日照,秋雨と新雪の量で左右されるというが,この分だと今年は見事だろう。

もう少し登ると,馬ノ背を経てカールの底に着く。山の紅葉は一日で100米ずつ下にくだるという。上方のカールの紅葉を楽しみに,また登りはじめる。絵の正面は薬師岳である。

スケッチとエッセイ 武田 幹男

昭和7年生まれ
薬学博士元・田辺製薬株式会社 有機化学研究所長 常務取締役
※絵の略歴 定年退職後、 水彩スケッチを始める
山と渓谷社「山のスケッチコンテスト」準特選入賞
2002年、個展を開催 楽風会 所属
※山の略歴 元・関西山岳会会員
現在はネパール・ヒマラヤのトレッキングなどを楽しむ