2004年8月号(第50巻8号)

昔は昔 今は今

元 モダンメディア編集室 編集人
辻本 直明

モダンメディア(MM)が誕生してから、今年で「知命」を迎えたことは慶賀にたえない。MM発刊当時は花の高校生活を謳歌していたが、時は移り1962 年には製品の学術パンフレットを作成する傍ら約2年間、後任者が入社するまでMM発行の一端を担っていた。大学で細菌学を専攻したことにより学生時代から国立予防衛生研究所・細菌部に実習生として籍を置き、細菌学に関する和書や定期刊行物が殆ど発行されていない時代だったので先生方の指導を受けて辞書を片手に洋書(廉価な海賊版)を読んで知識を深めていった。

当時、MMは執筆を基礎医学をリードする先生方に依頼していたので細菌検査をする人達が最新情報を入手できる情報誌の役目を担っていると思いながら編集していた。MMの発行と同時に不定期に当初は細菌学、後には各種検査に関する最新の知識を網羅した「栄研叢書」を発行し、斯界の好評を得ていた。編集は大変だったがいち早く最新の知識を得られるので楽しかった。

歳月が流れ、MM が「三十にして立つ」時にMMの編集人として刊行を担当することになったが、その時には細菌学も「形態学」の世界から「遺伝子」の世界に様変わりしていた。検査の世界も細菌検査から生化学検査に主流が変わり、分子生物学・免疫学の領域に踏み込んでいた。原稿を入手後、人は時に執筆時に誤記をすることがあるので編集人は訂正する義務があり、難解な内容を理解するのに日夜悩んだが、聞くは一時の恥でおしとおした。「不惑」まで担当することなく優秀な後任に後を引き継いで、学術宣伝業務から引退した。「学ばざればすなわち老いて衰う」という言葉に従い、61 歳から日本各地を訪ねて歩くことにした。日本には世界遺産に登録された場所が12 ケ所あり、自然遺産は「白神山地」と「屋久島」である。高齢化社会となり、中高年の登山やトレッキングが多いとは聞いていたが、屋久島でアップダウンのある苔で滑りやすいヤクスギランドの50 分コースを先頭に立って歩いたのは82 歳の男性、白神山地で小雨の中を約2時間かけて岩だらけの道を歩いて「暗門の滝」まで往復したのは82 歳の女性であった。太平洋戦争の過酷な時代をしぶとく生き抜いた大正末期生まれの人達のパワーには脱帽であった。こちらは完全に子供扱いであった。かえりみるに、MMはまだ50 歳である、斯界の為にますます内容を充実して[耳順(60 歳)]・[従心(70 歳)]と発刊を続けていくことを期待している。