2004年8月号(第50巻8号)

山のスケッチ

雲ノ平

ペン+水彩(23.8 × 19.1cm)

雲ノ平は黒部川の源流地帶にひろがる標高2,500米の熔岩台地である。ハイマツやオオシラビソの点在する草原には多くの高層湿原があり,紅いモウセンゴケにまわりを彩られた池塘が空をうつして美しい。この高原のところどころに,スイス庭園,アラスカ庭園,ギリシャ庭園などのハイカラな名前がつけられているが,私にはどうも頂けない。

まわりには,カベッケ平,ワリモ沢,岩苔小谷などの古くからの美しい地名があるだけに,一層その感が深い。

とにかく北アルプスの中央部に位置するので,入山に最低でも二日はかかるが,それだけにまわりを取り囲む山々の眺めは素晴らしい。黒部五郎,薬師,水晶,三ッ俣蓮華などの山々を眺めて,雪が斑に残る草原を歩くと時のたつのを忘れる。祖父岳の噴火の際の熔岩によって出来たとはとても思えないたおやかな原がどこまでも続いている。

絵の正面は薬師岳である。

スケッチとエッセイ 武田 幹男

昭和7年生まれ
薬学博士元・田辺製薬株式会社 有機化学研究所長 常務取締役
※絵の略歴 定年退職後、 水彩スケッチを始める
山と渓谷社「山のスケッチコンテスト」準特選入賞
2002年、個展を開催 楽風会 所属
※山の略歴 元・関西山岳会会員
現在はネパール・ヒマラヤのトレッキングなどを楽しむ