2004年3月号(第50巻3号)

医療安全管理の周辺

奈良県立医科大学 中央臨床検査部 岡本 康幸

医療事故に関するニュースが毎日のように報道されている。この状況は一体いつまで続くのか、いつ自分の身にふりかかってくるのかという気持ちは、患者ばかりではなく、医療従事者も同じである。決まった作業を繰りかえしているような工場とは異なって、病院の業務は多様かつ可変的である。さらに、突発的な事態に速やかな対応が要求される。これほど事故の起こりやすい職場はないと思われるほどである。しかも、一旦事故が起こったら重大な結果を生じる可能性が高いことは周知のことである。残念ながら根本的な対策は困難で、事故を100%防ぐことはできないが、このことのために患者と医療従事者が対立するような関係になってしまうのは不幸なことである。

平成15年度から当病院内に医療安全推進室・患者相談窓口が設置され、その責任者である安全管理者とスタッフが医療事故に関する患者からの相談を受け付けるようになった。そこに様々なクレームが集中する。待ち時間が長い、応対が悪いなどのサービス面へのクレームも少なくない。中には精神医学的背景を持っていて、しつこく訪れる患者も含まれている。もっとも、内容の多くは医療行為とくに治療に対する不満である。患者は医師に強い期待感を持っているが、同時に不信感のような感情も持つ。この2つの異なる感情の背景にはどちらも、自分自身で疾病や医療に関して判断ができないという不安・焦燥が存在している。重要なことは、患者と医療従事者が情報を共有し、患者自身が医療行為の意義と内容を十分に理解することだと思われる。

さて、医療従事者は、患者に威圧的な態度をとってはいけないが、患者様による威圧的行為にはしばしば悩まされる。病院内で暴力を振るう者もいるが、そこまでいかなくても過激なクレームや脅しのような行為は日常的に発生している。患者の利害が絡んでいる診断書や嗜癖性のある薬剤の強要もある。医療従事者の患者へのセクハラが問題となったことがあるが、その逆もある。このような行為への対応は、医療従事者個人の判断に任されているのが現状であろう。しかし、対応法を誤ると問題をこじれさせ、医療従事者の安全を脅かす事態も危惧される。また、何でも患者の希望通りにやっていればいいというものでもない。このような患者による威圧的行為についても、広い意味での安全管理の課題として議論し、対応の原則だけでもマニュアル化することが必要ではないだろうか。