2004年1月号(第50巻1号)

アウトブレイク

金沢大学大学院医学系研究科 血液情報統御学 藤田 信一

1995年6月、米国アトランタのCDCに向かう機中でウォルフガング・ペーターゼン監督、ダスティン・ホフマン主演の映画『アウトブレイク』が上映されていた。その時は映画の中の出来事と特別気にもとめていなかった。しかし、アフリカを中心に発生したウイルス性出血熱のアウトブレイクや1993年に米国で流行したハンタウイルス肺症候群、さらには新興・再興感染症などの言葉をCDC内で耳にするようになり、フィクションである『アウトブレイク』が作られた社会的背景をぼんやりとながら理解することができた。後日、映画『アウトブレイク』は小説化され日本語訳も出版された。この滞在中に、CDCはCenters for Disease Controlから、疾病予防に積極的に取り組む姿勢を示してCenters for Disease Control and Preventionへと改名された。

帰国後、リチャード・プレストン著の『ホットゾーン』(高見浩訳)を読み、このノン・フィクション小説(1989年に米国ワシントン郊外の町レストンにある霊長類検疫所のサルに流行したエボラウイルス感染の恐怖をリアルに描いている)が映画『アウトブレイク』の原点であることを知った。同時に、エボラウイルスによる微生物災害の恐怖を否応なく納得させられた。加えて、HIV感染者の増加や昨年のSARSによるアウトブレイクは、1958年にノーベル医学生理学賞を受賞したジョシュア・レーダバーグ博士の“人類の地球上における永続的優位を脅かす最大の脅威はウイルスである”という警告が現実のものとなっていることを確信させる。

今冬もSARSの流行が危惧されている。当附属病院では正面入り口に、マスクの自動販売機を設け、咳のでる患者さんに着用を呼びかけることにした。これにより、飛沫感染とSARSパニックがある程度防げるのではと密かに期待している。