2024年3月号(第70巻3号)

素数雑感

小山田記念温泉病院
登 勉

 あるインターネットアンケート調査によると、「読書が趣味」と答えた人の割合は15 ~ 20%だそうである。筆者の場合も「読書」と答えることが多いが、他にこれといったものがないからという消去法的理由である。ただ、読む本の選択には漠然としたルールを設けている。小説の場合は、一人の作家の作品を可能な限り刊行順に読むことにしている。刊行順にする理由は、作家の筆力というと大袈裟になるが、成長の跡を感じたいからである。それぞれの作品の内容を楽しむ以外に、圧倒されるほどの文章表現の巧みさに遭遇すると読書の醍醐味としては格別である。しかしながら、作品を楽しむことや文章表現の巧みさを感じることは、読み手に与えられた特権であり、普遍性のある判断でないことは言うまでもない。もう一つのルールは、作家に関係なく、書棚に並んだ本のタイトルを目で追って、「面白そう」と感じた本の中から選ぶことである。「素数の音楽」(マーカス・デュ・ソートイ著、富永星訳。新潮社)を選んだ理由の伏線には、定年退職後に数学を本格的に学んでいると近況を知らせてくれた尊敬する先輩の存在があった。「素数」の歴史は古く、紀元前300年頃の古代ギリシャ時代に遡る。アレクサンドリアの学術研究所に所属したユークリッドは教科書『原論』をまとめ、命題20 で「素数は無数にある」という単純かつ奥深い真理を述べている。素数は、1より大きい自然数で、正の約数が1と自身のみであるものとされる。素数は数の原子のような役割を果たしていて、それぞれの素数はオンリーワンの存在であるといえる。最大の素数を探求するプロジェクトが進行中で、2018 年1 月現在、最大の素数は2324 万9425 桁に及ぶことが知られている。
 私たち一人一人は社会や家庭での役割を担っていて、時にはいくつもの役職を務めている。筆者の場合、名刺は異なる所属のものが5つ、名刺を作ってない役職も合わせると10 を超える。自分自身を素因数分解して、残った素数こそが本来の自分であることを常に意識して、このコアになる部分をしっかり磨いて生きていきたいと思う。