2023年10月号(第69巻10号)

伝える難しさ(2)

福島県立医科大学 感染制御学講座
金光 敬二

 今までいくつもの病院をラウンドし、感染対策の実態について知ることができた。時には、アウトブレイクも経験した。そんな時に問題になるのが標準予防策の遵守である。多くの医療従事者が、「標準予防策」という用語を知るようになったし、少なくとも自分では理解していると解釈している。医学生にも座講や病棟にでる前のオリエンテーションの時などを含めて複数回教えている。しかし、「標準予防策」を問うた時に満足な答えが返ってきた例(ためし)はない。医療従事者も同じである。標準予防策ができないとなると病原体伝播のリスクは高まり、時にアウトブレイクの発生にもつながる。感染対策にとってイロハのイである。常々、そんなことを思っていたが、公園に行った時に看板が気になった(図1)。みんなでキレイに使うのは常識であり、誰もが理解できるものと考えられる。でも、この公園で花火をやっていいのかどうか?自転車に乗っていいのか?については、良く分からない。ふっと思ったのは、先に出てきた「標準予防策」に似ているような気がした。「標準予防策」の用語も知っているし、常識のようなものだから、当然自分はできると思い込んでいる。でも、実践段階になると実は良く分からない。受け持ち患者の部屋で処置をし、廃棄物が出るだろうから、自分はどのようか個人防護具を着けてどのような動線でナースステーションに帰ればいいのか。手洗いのタイミングは、どこで求められるかなどを頭の中に事前に描いておかなければならない。施設のルールにも従いながらこれを行うのは、そんなに易しい問題ではない。
 そんな時に別の公園に行ったら具体的な看板(図2)に出くわした。最初の看板と違って明確に、花火はやってはいけない、自転車で乗り入れてはいけない旨が書いてある。こちらのほうがより具体的で実践的である。どのように伝わるかは、受け手の問題だけでなく伝える側の問題でもあるといえよう。もし、「標準予防策」が理解されていないとすれば、学生や医療従事者の問題だけでなく教える立場の問題ともとれるのである。