2023年2月号(第69巻2号)

Orfèvre(オルフェーブル)

順天堂東京江東高齢者医療センター 臨床検査科
佐藤 尚武

 Orfèvre(オルフェーブル)という言葉をご存じだろうか。フランス語で「金細工」を意味する単語である。以前にディープインパクトのことを書いたことがあるが、競馬好きの方であればオルフェーブルもご存じだと思う。オルフェーブルはディープインパクトに次いで出現した日本競馬史上7頭目の三冠馬である。オルフェーブルという名前は、父の名前であるステイゴールド(stay gold)にちなんだものであろう。
 優等生にして天才型のディープインパクトとは異なり、オルフェーブルは、破天荒な晩成型であった。全兄がG1 馬ドリームジャーニー(Dream journey)なので、良血馬として期待はされていたが、デビュー戦で勝利した後は、4 連敗し、特に3 戦目は10着の惨敗であった。なお、競走馬は父親が異なることが一般的なので、母親だけでなく父親も同一の場合を全兄弟と呼ぶ。オルフェーブル陣営が6戦目に選んだのはスプリングステークスで、これは三冠競走の第1戦である皐月賞のトライアルレースである。ここまで5 戦1 勝のオルフェーブルは、このレースで3着以内に入り、優先出走権を得なければ皐月賞には出走できなかった。ところがオルフェーブルはこのレースを快勝し、以後5 連勝して三冠馬となる。次の有馬記念も勝利し、最上級のカテゴリーであるG1レース4勝目を上げる共に、ドリームジャーニーが有馬記念を勝っていたため、史上初の有馬記念兄弟制覇を達成した。だがその後も、阪神大賞典では競走中止寸前の大暴走をしながら、驚異の追い上げで2 着に入るなど、型破りのレースを続けた。
 4 歳時と5歳時にオルフェーブルはフランスに遠征し、ヨーロッパ最高峰のレースで、世界選手権的意味合いをもつ凱旋門賞で、2年連続して2着となる。欧州産馬以外で凱旋門賞に優勝した競走馬は皆無であり、ディープインパクトも3着(後に失格)に敗れている。オルフェーブルは、欧州産以外の競走馬としては最高の成績を残したのである。凱旋門賞の3 着失格以外は13 戦12 勝2 着1 回で、優等生型のディープインパクトに比べると、21戦12勝のオルフェーブルは競走成績が不安定である。しかし、フランスで凱旋門賞の前哨戦を2 勝し、凱旋門賞でも高いパフォーマンスを示したオルフェーブルの方が、ディープインパクトより絶対的競走能力は上と考える専門家も少なくない。オルフェーブルは、ディープインパクトとは異なる魅力を持つ、個性的で野性的な名馬である。