2023年1月号(第69巻1号)

デュアルライフのススメ

日本医科大学、東京逓信病院 病理
田村 浩一

 特定の地域と関係をもって継続的に訪問する人を「関係人口(訪問系)」といい、その数は全国で1,827万人(2020年9月国土交通省調査)もいるという。普段の生活の場とは別に、移住や観光ではなく、また出張や帰省でもない関係をもつというわけだが、中でも現地に物件を賃貸または所有して生活する「2拠点居住」を、デュアルライフと呼ぶのだそうだ。
 自分は1986年に、東京に家を買うのを諦めて建売別荘を購入し、夫婦2人の時は毎週のように訪れていた。しかし、子供ができ、休みは孫の顔を見せに妻の実家に帰省するのが恒例となるなどして足が遠のき、震災の後は10年も放置したままになっていた。それを、リタイアをきっかけにリフォームし、4月から週の半分は一人暮らしを楽しんでいる。これはまさに、今はやりの「デュアルライフ」をしているのだと知った次第。
 リフォームで拘ったのは、 ①仕事をする机の前は、緑の広がりが見える大きな窓にすること、 ②元々温泉付きだったので、浴槽を囲む2面の窓の位置を下げ、浴槽に入りながら外の緑を眺め、窓を開ければ高原の風が入るようにして「露天風呂気分」を味わえるようにすること、 ③もともとあったストーブを、熱効率の良いものに買い替えること、そして④電動ベッドを入れること、である。これらの「夢」は叶えられ、仕事も捗るようになったし、温泉巡りをしなくても毎日好きなだけ温泉を楽しめるようになった。
 周囲から心配されたのは食事のこと。しかし「病理医は料理医」ではないが、包丁は使い慣れており、料理も好きなので自分には苦になっていない。野菜は東京で買うより新鮮で安く、今の所は週1度の買い出しの後、「今晩は何を作ろうか」と考えるのが楽しみになっている。
 晴耕雨読と行きたい所だったが、クマザサの群生地で畑は作れず、ベランダでのコンテナ栽培を企ててみたものの、気候が合わないのかハーブすら育たないのは誤算だった。良い方の誤算は、東京との往復。新幹線で1時間なので電車利用を前提として考えていたが、現地用に購入した小型車が予想外に快適で、車での往復が主体になっている。若い頃の「スピード狂?」から脱して、煽られない程度のスピードで、遅いトラックは追いこして、という運転にもすっかり慣れた。平日移動なので、道が空いているのも「ドライブ」を楽しめる理由となっている。
 デュアルライフの目的は人によって違うが、震災後に「ライフライン」のリスクとして2か所に居住区を持つ方が安心との考えや、コロナ禍でリモートワークが普及した影響もあるようだ。実践している自分としては、移住と違って生活にメリハリができること、2つの居住区の利点・欠点を客観的に見直して対応できること、などで生活の満足度が高まっているように思う。
 モダンメディアをお読みの方も、機会があれば、「デュアルライフ」を考えてみてはいかがだろうか?