2022年12月号(第68巻12号)

トイレ考IV

帝京大学名誉教授
松田 重三

 トイレはご不浄とも言われ、汚い場所との印象があるが、神様が住んでいる場所と考える人々も居て、信仰する人も多い。
 そのトイレの神様が、烏枢沙摩明王。烈火をもって不浄を浄化する明王として知られ、そのご神体や護符などが、各地の寺院の便所のみならず、一般の家庭でも祀られ、通販で買う事も出来る。
 この明王は胎内にいる女児を男児に変化させる力を持っていると言われ、男児を求めた戦国時代の武将に広く信仰されてもきた。静岡県伊豆市の明徳寺では、烏枢沙摩明王が下半身の病に霊験あらたかであるとの信仰があり、参拝する人が後を絶たない。
 しかし一昔前は、トイレという個室はなく、多くは路上で用を足すか、おまるやバケツを使用するのが一般的だった。しかも用を足した後はおまるの中身を窓から捨てるので、どこの道路も糞尿があふれ、それをよけて歩くのも大変。なんと近代に至るまでハイヒールや傘が歩行の必需品であったという。
 貴族の館、フランスのヴェルサイユ宮殿でさえも便所がなく、広大な庭園のバラ園などの花壇が用足しの場所であったという。「ちょっと花を摘みに」という女性の、用足しの言い訳(隠語)は、ここから由来している。
 ご婦人のパラシュートのように尻が大きいドレス(バッスルスタイルドレス)は、実は用便でそのまましゃがんで尻まくりをせずに用を足すために考案されたドレスだった。
 今でも女子用トイレに行列が出来るのは、用を足すまでの行程が男性には想像も付かぬほど複雑だからだ。これを一挙に解消しようと考え出されたのが女性用小用きんかくし。現在の男性用小便器類似で、女子学校に設置されていたという。
 後ろ向きでしゃがまずに袴やスカートをよいしょとまくれば、小便がキンカクシに的確に放物線を描いて流れ、服装を整えるのも早いので評判が良かったと言うが、なぜか廃れてしまった。
 イグノーベル賞を受賞した米ジョージア工科大の研究によれば、「体重が3キロ以上の哺乳動物の排尿時間はすべて約21 秒である」という結果を報告した。犬、猫から象などの大型動物も、そして人も平均21秒(誤差は13秒)で排尿するという。
 透き通る、あの「誰でもトイレ」でも便器を後ろ向きに設置すれば、女性トイレは混まないに違いない。