2022年5月号(第68巻5号)

21世紀の真の国際人

順天堂大学医学部 病理 ・ 腫瘍学 教授/
国際教養学 教授(併任)
樋野 興夫

 「新渡戸稲造の学び」からみる「ぶれぬ大局観の獲得」は「教育の真髄」であろう。「ビジョン」は人知・思いを超えて進展することを痛感する日々である。
「進歩と保守の一致する所、旧と新との融合する所、そこに真醇なるものが生起する」(内村鑑三)の言葉が、身にしみる今日この頃である。
 「日本国のあるべき姿」として「日本肝臓論」を展開している。肝臓という「臓器」論に、具体的なイメージが獲得されよう。人間の身体と臓器、組織、細胞の役割分担とお互いの非連続性の中の連続性、そして、傷害時における全体的な「いたわり」の理解は、世界、国家、民族、人間の在り方への深い洞察へと誘うのであろう。昔って新渡戸稲造は国際連盟事務次長時代に、「知的協力委員会」を構成し知的対話を行った。そのメンバー中には、当時の最高の頭脳を代表するアインシュタイン、キュリー夫人もいたことは特記すべきことである。
 すべての始まりは「人材」である。行動への意識の根源と原動力をもち、「はしるべき行程」と「見据える勇気」、そして世界の動向を見極めつつ、高らかに理念を語る「小国の大人物」出でよ!「目的は高い理想に置き、それに到達する道は臨機応変に取るべし」・「最も必要なことは、常に志を忘れないよう心にかけて記憶することである」(新渡戸稲造)の教訓が今に生きる。
 今年(2018年)のゴールデンウイークの最大の想い出は、『ショート クルーズ』に招かれ、船内(英国船籍のダイヤモンド・プリンセス:約11万6千トン、290 メートル、乗客定員約2700 人)で、『がん哲学~人生ピンチヒッター~』と『がん哲学~空っぽの器~』の2回、講演の機会が与えられたことであろう。多数の聴講者、質問もあり大変有意義な時であった。クルーズの旅で大海を見ながら上記の新渡戸稲造の教訓が、鮮明に甦った。まさに、「教養を深め、世界の動向と時代を読む」であり、「21世紀の真の国際人」の学習ともなった。