2021年12月号(第67巻12号)

査察官にもっと臨床検査の専門家を

昭和大学横浜市北部病院 臨床病理診断科
木村 聡

 ご存じのように、検査室には、qualityを担保するため外部機関による査察と認証が行われている。同様に医療機関においても、日本医療機能評価機構による、いわゆる「病院機能評価」が行われている。今回はその内容について考えてみたい。
 名だたる医療機関の経営陣は、機能評価で高得点取得に熱心である。しかし、サーベイヤーに臨床検査のプロが派遣される機会は多くないためか、通り一辺倒のチェックに留まっている感が否めない。たとえば検体検査の結果報告時間。採血から報告までの時間を尋ねるだけで終わる例が多いようである。実際には曜日、時間帯、異常検体などで大きく変化するはずであるが、それらの分布範囲や対処法まで尋ねる例は少ない。時間がかかった検体をどのように把握し、その対策をどのようにしているのかは検査室管理上重要なポイントと思われる。緊急検査項目の品揃えと所要時間もラボの実力をみる良い指標である。外部精度管理にしても、単に参加するだけでなく、その成績と検査室指導者によるフィードバックを求めるべきではないか。
 同様に衛生検査所についても所轄の役所による立ち入り調査が行われるが、施設の開設者とともに、指導監督医の同席が求められている。しかし査察に訪れると、X bar-R管理図が何か答えられなかったり、査察に顔を出さない指導監督医も見受けられる。指導監督医に求められる資格は「医師免許」だけであり、精度管理や異常値、クレーム処理や主治医への適切な情報提供を業とする専門家を任ずるよう求める記載は見当たらない。臨床検査の専門医、管理医制度が確立し、日本専門医機構による基盤領域の1つに臨床検査が加えられた現在、検査専門医による関与がもっと必要ではないか。
 私見であるが、「指導監督医」とは、臨床医と検査室の両方を熟知し両者の仲立ちを行う役目を負っている。異常値やクレームの対処に主治医の側に立って検査室に意見するとともに、検査法や試薬の変更により臨床側に生じうる問題点を検査室代表として判りやすく主治医に伝える業務である。単に結果を出し臨床側にデータを送るだけならば、やがて業務の大部分を人工知能に取って代わられるであろう。臨床検査に習熟した医師が、スタッフ育成や査察官として、もっと活躍すべき時代が到来している。