2021年11月号(第67巻11号)

新しい専門医養成のゆくえ

医療法人財団 東京勤労者医療会 東葛病院
下 正 宗

 紆余曲折がありながら、2018年3月より、日本全体の専門医養成の新しい仕組みがスタートすることになった。どの道を選択するかに関しては、それぞれの自由裁量で、必ず専門医にならなくてはならないということもない。初期研修のように終了しなければ、単独で医療に従事できないとか将来的に医療機関の管理者になれないこともない。
 しかしながら、医療技術者として、ある分野を学んでみたい、その分野のエキスパートになってみたいと思うのは極めて自然なことである。これまでは、いったん踏み込んでみて、「ちょっと違うかな」と感じたときにその道を変えることは比較的容易にできたし、道を変えた際に、それまでに経験したキャリアを生かした形での研修をすることができた。新制度では、プログラムというパッケージに組み込まれる仕組みであり、進路を変えるということは、また一から始める、つまり、振り出しに戻るで、多くの場合それまでのキャリアは行かせない仕組みになっている。臨床検査の分野のように、カリキュラム制を並行して走らせ、これまでのキャリアを生かした研修ができる分野もあるが、多くはそうなっていない点は非常に気がかりである。
 また、初期研修が必修化された際の「副作用」として、大学の医師派遣力がなくなり、地域医療が崩壊したとされていたが、今回はその轍を踏まないとして、「地域医療への配慮」なる文言がいろいろとちりばめられていた。しかし、結果としては、医師の地域偏在を拡大させてしまった感が強い。地域医療を考えたときに、後期研修医が数か月単位でローテートしてきたとして、医療の質が担保できるような状況になるとはとても思えない。研修を終え専門医になった際に、自分の勤務先としてローテートした地域を選択する可能性は高くないであろう。地域の小さな医療機関であっても、責任を持ちながら医療活動をするなかで成長していく仕組みの中でしか地域医療を支える人材は養成できないのではないかと思う。数年は試行錯誤が続くと思うが、国民にとって医療が遠いものにならないようにしたいものである。