2019年10月号(第65巻10号)

日本の四季彩巡り(10)

紅葉に燃ゆる二段滝

撮影地:
秋田県 阿仁町
安の滝

秋田県の北秋田市の阿仁は古くからマタギの町として知られている。マタギとは東北地方・北海道から北関東、甲信越地方にかけての山岳地帯で、古い方法を用いて集団で狩猟を行う者を指す。その歴史は平安時代に遡るとされている。安の滝は阿仁町の中ノ又渓谷の奥にある落差90メートルの滝で、私が最も好きな滝の一つである。日本の滝百選の第2位に選ばれ、岸壁にかかるすだれ状の流れが紅葉に映えその秀麗な姿に感動する。この滝の「安」の由来は、享保のころ、この地に暮らしていた「ヤス」という娘の悲恋伝説にあるとされ、不幸にもヤスが滝から身を投げてしまったことから名付けられた。10月中旬、この日の朝は実は福島県の磐梯で吾妻小富士の紅葉撮影を行っていた。以前、夏に安の滝を訪れたことがあるが、前から紅葉の時期にぜひ撮影したいという気持ちがあり、絶好の天気なので思い切って、東北道を経由し田沢湖を北上して約5時間かけてこの地に着いた。安の滝の魅力は何と言ってもその形が美しい。谷合のV字の所から勢いよく滝の水が放出し、上段と下段の2段に分かれて流れ落ちる。滝の左右は赤、朱、黄色の落葉広葉樹と、針葉樹が入り混じった錦秋の世界である。晴れた午後には虹がかかることがあり、日が陰る30分前にかろうじて現地に着き、幸運にも岩盤にかかる虹の一部も撮ることも出来た。この滝の前にいるといつまでもゆったりとした優雅な気持ちになれる。安の滝の周辺には二の滝、幸兵衛滝や桃洞滝など多くの滝があり、特に新緑や紅葉の時期にはこれらも訪れたい。ただしマタギの町であるので熊対策は十分に行う必要がある。

写真とエッセイ  北川 泰久

<所属>
東海大学名誉教授・東海大学付属八王子病院顧問
医療法人 泰仁会 理事長

<プロフィル>
昭和49年慶應義塾大学医学部を卒業し、後藤文男教授の神経内科教室に入局、米国べーラー大学留学後、川崎市立川崎病院に勤務、膠原病と脳卒中の研究を行い、平成4年より東海大学に赴任、東海大学大磯病院副院長を歴任し、平成15年より東海大学神経内科教授、平成17年より付属八王子病院病院長を9年間つとめ平成29年より東海大学名誉教授、付属八王子病院顧問、医療法人泰仁会理事長、現在に至る。

専門は脳卒中、頭痛、生活習慣病、認知症。日本医師会学術企画委員会副委員長をつとめ、日本医師会雑誌の編集に長年携わっている。写真歴は約15年、各季節の旬を盛り込んだ風景写真のカレンダーを11年間作成し続け、平成26年には春夏秋冬の風景写真130余りを盛り込んだ写真集、憧憬を発表。

今まで使用してきたカメラはペンタックスとニコン、現在はニコン850Dを主に使用している。