2018年12月号(第64巻12号)

日本の四季彩巡り(12)

奥日光の貴婦人の目覚め

撮影地:
栃木県
奥日光 小田代ヶ原

冬の奥日光、小田代ヶ原は霧氷からはじまる。中禅寺湖の竜頭の滝を過ぎてしばらくすると赤沼車庫があり、そこから自然保護のために運行されている低公害バスに乗って小田代ヶ原へ行く。小田代ヶ原の朝の輝く霧氷を見るには始発のバスでは遅いため、真夜の真っ暗な暗い道を歩いて行くか、車に積んだ折りたたみ自転車で行くしかない。朝3時半に出発し、ネットで購入した折りたたみ自転車に初めて乗ったが、サドルが堅く乗り心地が良いとはいえない。小田代ヶ原へはゆっくりとした登り坂でなかなか進まず、自転車のライトの光は真っ暗で怖いほどの暗黒の世界に吸い込まれていく。駐車場から40分ほどで小田代ヶ原に着くと既に10数名のカメラマンが到着していた。気温はマイナス7度、少しずつ白みかけると山の木々の間を怪しげな白い靄が流れていく。それが朝の霧氷の元になるのであろうか。ミズナラで囲まれる小田代ヶ原の草原の真ん中に1本だけ生えている「小田代ヶ原の貴婦人」と呼ばれるシラカンバ(白樺)の木を遠くに見ることができる。冬の朝のハイライトはその貴婦人に付着した霧氷が日の出と同時に輝く瞬間である。80-400mmのレンズを望遠側いっぱいして貴婦人をアップで撮影した。太陽があがるにつれて霧氷が輝く範囲はひろがり、冬の小田代ヶ原の絶景が完成する。ずっといたい気持ちではあるが、自転車にのり風を切りながら緩やかな坂道を下り、爽快な気分で赤沼車庫に着いた。

写真とエッセイ  北川 泰久

<所属>
東海大学名誉教授・東海大学付属八王子病院顧問
医療法人 泰仁会 理事長

<プロフィル>
昭和49年慶應義塾大学医学部を卒業し、後藤文男教授の神経内科教室に入局、米国べーラー大学留学後、川崎市立川崎病院に勤務、膠原病と脳卒中の研究を行い、平成4年より東海大学に赴任、東海大学大磯病院副院長を歴任し、平成15年より東海大学神経内科教授、平成17年より付属八王子病院病院長を9年間つとめ平成29年より東海大学名誉教授、付属八王子病院顧問、医療法人泰仁会理事長、現在に至る。

専門は脳卒中、頭痛、生活習慣病、認知症。日本医師会学術企画委員会副委員長をつとめ、日本医師会雑誌の編集に長年携わっている。写真歴は約15年、各季節の旬を盛り込んだ風景写真のカレンダーを11年間作成し続け、平成26年には春夏秋冬の風景写真130余りを盛り込んだ写真集、憧憬を発表。

今まで使用してきたカメラはペンタックスとニコン、現在はニコン850Dを主に使用している。