2015年4月号(第61巻4号)

肺炎原因菌シリーズ 4月号

写真提供 : 株式会社アイカム

肺炎球菌 Streptococcus pneumoniae IV

「経気道感染後に膿胸を発症したマウスにおける胸膜表面の走査型電子顕微鏡像」

胸水は、肺炎球菌肺炎の最多併発症であり、かつては罹患患者の1/4に見られた。胸水は浸出液の特徴をもつが、グラム染色や培養では肺炎球菌は証明されない。また大多数の症例においては、胸水の量は少なく、発熱などの症状もみられない。しかし一部の症例は、肺炎に続いて悪寒戦慓を伴う高熱、胸痛、呼吸困難、頻脈、好中球増多症などの症状を伴って急性膿胸を発症する。胸腔穿刺によって膿性浸出液の貯溜が確認されれば診断が確定する。治療には適切な抗菌薬の投与と持続ドレナージが不可欠である。
肺炎球菌肺炎に続発する急性膿胸の動物モデルについてはほとんど報告を見ないが、1996年に紺野昌俊先生(帝京大学名誉教授、ペニシリン耐性肺炎球菌研究会代表)の監修のもとに(株)アイカムが製作した「肺炎」と題する学術映画のなかにマウスモデルを使って急性膿胸の発症過程を追った見事な映像が収められている。それはヒトの場合と同様にマウスに対しても最も強い毒力を示す肺炎球菌3型菌臨床分離株の培養菌液を健常な近交系マウスの片肺の気管支内に注入して肺感染モデルを作成し、経時的に安楽死させたマウス個体から摘出した感染肺の外表面を覆う胸膜の標本を走査型電子顕微鏡下で観察した映像である。感染15時間後ではすでに多数の菌が胸膜を破ってその外側に出現しているものの、この時点で白血球の姿は認められない。感染24時間後になると、菌の集塊の周りを多くの白血球(好中球)が取り囲み、急性膿胸とよばれる病態が成立したことを明確に示している。その感染24時間後の走査型電子顕微鏡像がこの写真の原画である。ただし分かりやすくするために肺炎球菌を黄色に着色してある。(転載をご快諾下さった紺野昌俊先生に深謝いたします。学術映画「肺炎」は現在DVD版として(株)アイカムから発売されています。)

写真と解説  山口 英世

1934年3月3日生れ

<所属>
帝京大学名誉教授
帝京大学医真菌研究センター客員教授

<専門>
医真菌学全般とくに新しい抗真菌薬および真菌症診断法の研究・開発

<経歴>
1958年 東京大学医学部医学科卒業
1966年 東京大学医学部講師(細菌学教室)
1966年~68年 米国ペンシルベニア大学医学部生化学教室へ出張
1967年 東京大学医学部助教授(細菌学教室)
1982年 帝京大学医学部教授(植物学微生物学教室)/医真菌研究センター長
1987年 東京大学教授(応用微生物研究所生物活性研究部)
1989年 帝京大学医学部教授(細菌学講座)/医真菌研究センター長
1997年 帝京大学医真菌研究センター専任教授・所長
2004年 現職

<栄研化学からの刊行書>
・猪狩 淳、浦野 隆、山口英世編「栄研学術叢書第14集感染症診断のための臨床検査ガイドブック](1992年)
・山口英世、内田勝久著「栄研学術叢書第15集真菌症診断のための検査ガイド」(1994年)
・ダビース H.ラローン著、山口英世日本語版監修「原書第5版 医真菌-同定の手引き-」(2013年)