2009年12月号(第55巻12号)

墨画にのめりこんで

トランペットフラワー

花びらの先端が弓形にそっくり返って、あたかもトランペットのような形をしているのでこの名があるのだろう。夢の島熱帯植物園に行ったとき、この植物の名がブルグマンシア ウェルシコロル(Brugmansia)、ナス科、エクアドル原産で、夜強い香りを放つ。咲き始めはクリーム色で、次第に色づくと紹介されていた。また神代植物公園の温室では、ダチュラ コルニゲラ(Datula cornigera Hook)なす科となっていた。
この絵を描いたのは、冬の寒い日に、新宿御苑の温室に行ったときであった。いろいろ見所があったが、特に眼を引いたのがこのトランペットフラワーであった。ものすごく大きく成長し、棚の上に幾本も太い枝を伸ばし、それに見事な花がぶら下がって咲いているのは実に壮観であった。一つ一つの花が、まるで天女が舞っているような、あるいはバレリーナが踊っているような、面白い形をしていて見飽きないが、それが天井一杯に広がっていて、絵に描いていてとても楽しかった。
スケッチを終え、温室の外に出ると、初めのうちは温室の中の暖かさが身に残っていてよかったが、外の景色を描いているうちに、フェルトペンを持つ手がかじかんできた。御苑の外の喫茶店に入り、温かい紅茶茶碗を手にとり暖めながら飲んだ紅茶のおいしかったこと、それを文にして書き加えた。
さて、これで私の水墨画の12ヵ月が終わりになった。2年間皆様に私が趣味にして描いてきた絵を毎号表紙でご覧頂き、本当に有難うございました。お世話になった編集担当の方々に心から御礼申し上げます。皆様ご機嫌よろしゅう。

絵とエッセイ 藤本 吉秀

大正15年(昭和元年)生まれ。昭和の年号がそのまま年齢になった。

<職歴:内分泌外科医>
もと東京女子医大内分泌外科教授。1987~1989の2年間国際内分泌外科学会会長を務めた。
今は癌研有明病院、日本赤十字社医療センター、調布東山病院で甲状腺診療をしている。

<絵の略歴>
昭和59年、八丈島から贈られた黄色のシンピジウムがとても美しいので色紙に描いてから、季節の草花を色紙に描くのが趣味となった。平成10年、柏市で甲状腺外科検討会がひらかれた時、会場の近くの画廊で色紙の個展をした。
その後、松下黄沙(Group 82)について墨絵三昧。
2人展(平成14年)、12人展(平成16年)をはじめ、春、初夏、秋にそれぞれ各種グループ展に出展。

<運動>
ずっと以前のことになるが、学生時代、一高、東大を通してボートを漕ぎ、昭和24、25年8人で漕ぐエイトで連続全日本選手権制覇。

はじめの1年間は、「色紙に季節の草花を描く」をテーマにして出します。
次の1年間は、「墨画にのめりこんで」として、風景、植物、仏像など何でも取り上げて描きます。