2009年11月号(第55巻11号)

墨画にのめりこんで

メタセコイアの紅葉

日本の秋は紅葉で彩られる。1年を通して何回も出かける神代植物公園であり、もう15年ほど前から毎年のように出かけているが、こんなに豪勢なメタセコイアの紅葉を見たのは平成18年がはじめてであった。100万年前の化石の木であるというメタセコイアは、背が高く、澄んだ初冬の青空にそそり立っている。それが池の傍で林になっており、一斉に黄色、褐色、紅色に紅葉し、しかも一本一本、木によって多少紅葉の程度が異なるので、微妙な色合いを織り成している。林の地面は、黄色の落ち葉が落ち敷いて黄色の絨毯となっている。すぐ傍の池に紅葉の木々が映って、美しい光景が2重に鑑賞できる。
普通水墨画というと、墨を磨り墨一色で描きあげることが多いが、これはスケッチと同時に撮ってきた写真を傍において、先ず絵皿に黄、茶、褐色、赤、の色を溶き、それを太い筆にとって、大きい全紙の和紙に存分に塗った。これほど多くの色を使った墨絵は今まで描いたことがなかった。彩墨画の名が古くからあるが、さすがに紅葉を墨だけで描くのは至難の業である。
昨年もう一度このメタセコイアの紅葉を見たいと思って出かけた。11月中旬に行ったときは、まだ大部分が緑の葉であり、そのすぐ隣にあるヌマスギの林は黄褐色に紅葉していた。こちらは木の背が幾分低く、一本一本の木の間隔が広いせいかメタセコイアの林ほどの壮観さがない。もう一度12月初頭に出かけたときは、メタセコイアの紅葉はもう盛りを少し過ぎていた。ほんとうの見ごろは1週間か10日くらいしかないことをあらためて認識した。
この絵は掛け軸にし、平成19年銀座清月堂画廊で開かれた向陵絵の会展に出した。

絵とエッセイ 藤本 吉秀

大正15年(昭和元年)生まれ。昭和の年号がそのまま年齢になった。

<職歴:内分泌外科医>
もと東京女子医大内分泌外科教授。1987~1989の2年間国際内分泌外科学会会長を務めた。
今は癌研有明病院、日本赤十字社医療センター、調布東山病院で甲状腺診療をしている。

<絵の略歴>
昭和59年、八丈島から贈られた黄色のシンピジウムがとても美しいので色紙に描いてから、季節の草花を色紙に描くのが趣味となった。平成10年、柏市で甲状腺外科検討会がひらかれた時、会場の近くの画廊で色紙の個展をした。
その後、松下黄沙(Group 82)について墨絵三昧。
2人展(平成14年)、12人展(平成16年)をはじめ、春、初夏、秋にそれぞれ各種グループ展に出展。

<運動>
ずっと以前のことになるが、学生時代、一高、東大を通してボートを漕ぎ、昭和24、25年8人で漕ぐエイトで連続全日本選手権制覇。

はじめの1年間は、「色紙に季節の草花を描く」をテーマにして出します。
次の1年間は、「墨画にのめりこんで」として、風景、植物、仏像など何でも取り上げて描きます。