2009年2月号(第55巻2号)

墨画にのめりこんで

椿「天ガ下」

2月、3月は、椿の花が咲く季節である。神代植物公園の奥のほうに椿を集めて植えてある区域があり、椿ファンにはたまらない別天地になっている。椿の原種とされる藪椿は、公園内のあちこちに植えてあり、それぞれ大木になっていて、見ごたえがある。幹には苔が生えている。墨絵に描かれるのも藪椿が多い。鎌倉に行っても、風雪に耐えてきた藪椿の古木が見られ、鎌倉の歴史を代弁しているかのように見える。
一方、園芸種だろうと思うが、白と赤の混じった優雅な花の椿の一群がある。その代表的なのがこの絵の「天ガ下」であり、最初にこれを見つけたときは、天女が舞い下りてきたかと思うほどのあでやかさで、しかも品がよく、青く晴れ上がった早春の大空をバックに咲き誇っている花を見上げると、寿命が延びるような歓びを感じた。
植物公園からの帰り道にある三鷹市農協植木市場に立ち寄ったところ、幸い同じ種類の椿を見出し、早速購って持ち帰り、自宅の庭の一等地に植え込んだ。雪見灯篭のすぐ傍である。植えてすぐから、毎年色とりどりの花を咲かせてくれる。墨絵にしても、結構評判がよい。
忘れられない一枚の椿の日本画がある。京都に行って清水寺に詣でようと緩やかな上りの参道を歩いていたとき、一軒の古物商のショーウインドウにこれによく似た赤白まだらの椿の花を花瓶に挿した絵が目に付いた。とても床しい雰囲気の絵であった。

絵とエッセイ 藤本 吉秀

大正15年(昭和元年)生まれ。昭和の年号がそのまま年齢になった。

<職歴:内分泌外科医>
もと東京女子医大内分泌外科教授。1987~1989の2年間国際内分泌外科学会会長を務めた。
今は癌研有明病院、日本赤十字社医療センター、調布東山病院で甲状腺診療をしている。

<絵の略歴>
昭和59年、八丈島から贈られた黄色のシンピジウムがとても美しいので色紙に描いてから、季節の草花を色紙に描くのが趣味となった。平成10年、柏市で甲状腺外科検討会がひらかれた時、会場の近くの画廊で色紙の個展をした。
その後、松下黄沙(Group 82)について墨絵三昧。
2人展(平成14年)、12人展(平成16年)をはじめ、春、初夏、秋にそれぞれ各種グループ展に出展。

<運動>
ずっと以前のことになるが、学生時代、一高、東大を通してボートを漕ぎ、昭和24、25年8人で漕ぐエイトで連続全日本選手権制覇。

はじめの1年間は、「色紙に季節の草花を描く」をテーマにして出します。
次の1年間は、「墨画にのめりこんで」として、風景、植物、仏像など何でも取り上げて描きます。