2008年8月号(第54巻8号)

色紙に描く季節の草花

くず(葛)

もう10年位前、住んでいる東京都杉並区が群馬県吾妻町に公立保養所を造り、希望者を募り抽選で当たると安い費用で宿泊ができるようになった。できて間もない時であった。幸い当たった。8月第一週に夏休みをとり、自分の車で出かけた。久しぶりに関越自動車道を疾走するのも快かった。地図を頼りに高崎で高速を降り一般道に入って走り、家を出てから3時間余りようやく目的地に近づくと、急に里山の風情に変わり、沿道に蒟蒻畑も見られるようになった。

いよいよ到着。駐車場から宿泊所まですべてが都会風に造られており、広大な敷地内に遊園地や運動場まで併設してある。山を切り開いて造ったので、建物の周囲は山林である。ただ猛烈に暑かった。少しは涼しいことを期待して出かけたのであったが、気温は都内と変わらず、どうしても冷房のきいた館内に閉じこもりがちになった。

少しでも戸外に出て田舎の空気を吸いたいと願い散歩した時、この勢いのよい葛に出会った。ちょうど花を付けていたので、格好の色紙絵の対象になった。

この時からしばらく経って2年ほど前、熊本の友人が呼んでくれて講演に出かけた。翌日、名にしおう阿蘇山をドライブさせてもらった。あいにく時々小雨がちらつく天気であったが、いよいよ帰りかけて外輪山を越すあたりで、葛の花がたくさん数珠状に咲き、半分はもう実がなりかけているのを見かけた。

葛の花を絵に描こうとしても、ちょうど格好良く咲いているのはほんの一週間くらいの短い期間のように思う。

絵とエッセイ 藤本 吉秀

大正15年(昭和元年)生まれ。昭和の年号がそのまま年齢になった。

<職歴:内分泌外科医>
もと東京女子医大内分泌外科教授。1987~1989の2年間国際内分泌外科学会会長を務めた。
今は癌研有明病院、日本赤十字社医療センター、調布東山病院で甲状腺診療をしている。

<絵の略歴>
昭和59年、八丈島から贈られた黄色のシンピジウムがとても美しいので色紙に描いてから、季節の草花を色紙に描くのが趣味となった。平成10年、柏市で甲状腺外科検討会がひらかれた時、会場の近くの画廊で色紙の個展をした。
その後、松下黄沙(Group 82)について墨絵三昧。
2人展(平成14年)、12人展(平成16年)をはじめ、春、初夏、秋にそれぞれ各種グループ展に出展。

<運動>
ずっと以前のことになるが、学生時代、一高、東大を通してボートを漕ぎ、昭和24、25年8人で漕ぐエイトで連続全日本選手権制覇。

はじめの1年間は、「色紙に季節の草花を描く」をテーマにして出します。
次の1年間は、「墨画にのめりこんで」として、風景、植物、仏像など何でも取り上げて描きます。