2008年6月号(第54巻6号)

色紙に描く季節の草花

百合

百合には種類が多い。それぞれ形が美しく貴婦人の風情がある。この色紙に描いた鉄砲百合は、名前は良くないが花の形は百合の中でも特にすっきりしていて美しい。球根を鉢に植え込んで置いたのが、芽を出して梅雨の時季になり見事に花が咲いた。鉢を庭に置き、その前に座りこんで絵に描いた。

例のごとく、面相筆に墨をつけ、それで色紙にいきなり花の輪郭をとっていく。私は外科医であるが、メスをとって皮膚切開をする勢いよりもっと軽やかに、筆の毛先から一番離れた筆の元のほうを手に持って、描こうとする線をいきなりまず一本、次いで別の一本を描き、目の前にある鉄砲百合の花びらの輪郭全体を描きとる。一つの花が終れば次の花に移る。後は茎と葉を描きこみ、自然の造形の妙にほれ込みながら全体の絵を仕上げる。

輪郭がとれれば、あとは色を付ける。どうしてこのように麗しく妙なる形ができたものか、昆虫を呼び寄せ花粉を運んでもらうべく、自然がこうしたものを生み出したのであろう。たいていの百合が、またいい匂いを放つ。

この季節、野山に行くと大きい山百合が咲いている。とても豪勢で百合の王者といった風情がある。今まで何回となく絵に描こうと試みたが、実物に負けてなかなか思うような絵にならない。

庭に球根を植える時、特に百合の類は深く植える必要がある。山百合も鉄砲百合も、1~2年は芽を出し花を咲かせるが、いつの間にか出てこなくなる。その点鹿子百合(かのこゆり)は土地に合うのか、年々株の数が増え、しかも花数も増えて、ますます勢い旺盛である。

絵とエッセイ 藤本 吉秀

大正15年(昭和元年)生まれ。昭和の年号がそのまま年齢になった。

<職歴:内分泌外科医>
もと東京女子医大内分泌外科教授。1987~1989の2年間国際内分泌外科学会会長を務めた。
今は癌研有明病院、日本赤十字社医療センター、調布東山病院で甲状腺診療をしている。

<絵の略歴>
昭和59年、八丈島から贈られた黄色のシンピジウムがとても美しいので色紙に描いてから、季節の草花を色紙に描くのが趣味となった。平成10年、柏市で甲状腺外科検討会がひらかれた時、会場の近くの画廊で色紙の個展をした。
その後、松下黄沙(Group 82)について墨絵三昧。
2人展(平成14年)、12人展(平成16年)をはじめ、春、初夏、秋にそれぞれ各種グループ展に出展。

<運動>
ずっと以前のことになるが、学生時代、一高、東大を通してボートを漕ぎ、昭和24、25年8人で漕ぐエイトで連続全日本選手権制覇。

はじめの1年間は、「色紙に季節の草花を描く」をテーマにして出します。
次の1年間は、「墨画にのめりこんで」として、風景、植物、仏像など何でも取り上げて描きます。