2007年9月号(第53巻9号)

ヒマラヤの詩―山と花に魅せられて

高原のヤク

ラサからヒマラヤ山脈の北側に広がる、広大なチベット高原を4WDで縦走。チベット仏教文化の中心ラサから、インド・シッキムとの交通の拠点だったギャンツェ、シガツェを過ぎ、大草原を走り抜けます。西チベットへの分岐点、ラツェを過ぎるとルート上最高地点の峠、ギャ・ツォラ(5,200m)に着きます。峠には色とりどりの祈りの旗タルチョがはためいています。

峠には同じ様な車が10台位止まっていました。よく見ると、どろんこの道の深みに車がはまりこんで、そこから抜け出せないでいます。ドライバーたちはお互いに助け合いながら車を移動させています。そこで20分位の休憩の予定でしたが、まだ時間がかかりそうなので、10時30分とお昼には間がありましたが昼食にしました。昼食後も車は依然として軌道には乗りません。私たちも石運びを手伝い、手渡しでどろんこ道の下に埋めます。車と車をロープで繋ぎ、後ろから押してようやく脱出しました。それを何度も繰り返して、ようやく私たちの車をはじめ、他の車もすべて脱出できました。5,200mの高度での作業は全く息が切れます。出発できたのは2時間後の12時30分でした。それにしてもあのような所で車がストップしてしまったら大事です。最後まで全ドライバーがお互いに助け合うのを見て、時間が遅れたとはいえ、「自分さえ良ければ」という意識がないことにほっとしました。その後も悪路で1時間位停滞し、この道は4WDでないと走りきれないのだと納得。そしてまたドライバーは運転技術は勿論のこと、高度な修理技術も必要とされるのです。

車での移動に別れを告げ、いよいよトレッキングの開始です。ネパールと違いチベットでは荷物はすべてヤクが運びます。ヤクとはチベット高原に生息するウシ科の動物。4,000~6,000m程度の高地に適応しており、体重300~850kg。肩が瘤状に盛り上がっており、体表は長い毛に覆われています。テント場について荷を下ろし、自由になった若いヤク(多分、メスのナク)が草を食べていました。私たちとの雇用関係を知ってか知らずか、ティーを飲んでいる私たちをじっと見ていました。

(撮影:2000.7 チベット, カンシュン谷)

写真とエッセイ 後藤 はるみ

1938年 東京に生まれる
1963年 東京理科大学理学部卒業後、代々木病院検査室勤務を経て東京保健会・病体生理研究所、研究開発室勤務
1978年 東京四谷の現代写真研究所に第3期生として、基礎科、本科1、本科2、専攻科、研究科で7年間写真を学ぶ。
1984年 写真家・竹内敏信氏に師事、現在に至る
1999年 病体生理研究所定年退職

・日本山岳会所属 ・エーデルワイスクラブ会員
・全日本山岳写真協会 会員
・写真展「視点」に3回入選
・全日本山岳写真協会主催の写真展に毎年出品
・その他、ドイフォトプラザ等でグループ展多数