2007年8月号(第53巻8号)

ヒマラヤの詩―山と花に魅せられて

青いケシ

いつもはゆっくりと時間をかけて高度順化をしますが、今回のチベット・ヒマラヤのカンシュン谷は、カトマンドゥからチベットのラサ(3,600m)へと一気に高度を上げます。空港に着いたときには空気がいくぶん重苦しく感じます。4WDの専用車に乗り込み、ラサの市街までヤル・ツァンポ川に沿って走ります。

荒涼とした風景が広がり、そろそろ頭痛を感じ始めました。高度順応をはかるため、ラサで3泊し、2日間にわたって、チベット第一の仏教聖域・大昭寺、チベットの宗教・政治の中心として君臨したダライ・ラマの居城ポタラ宮殿、セラ寺等を観光します。「ポタラ宮殿」の前では、何度も「五体投地」を繰り返している巡礼者を見かけました。中には、何千キロという道をひたすら五体投地をしながら、ポタラ宮殿を目指している巡礼者もいるそうです。宮殿の中には250m2の壁画、千座近い仏塔、万席以上の塑像、1万幅以上の巻本があり、貝葉経、甘珠尓経などの貴重な経文典集などもあるといいます。こうした300年来の大量の歴史文化財に驚嘆し、巡礼者に僅かばかりのお布施をしました。観光をしながら、途中チベットの小学校に立ち寄って、子供達に送ろうとノート、鉛筆、消しゴムや鉛筆削りを買い込みました。

ラサに3日間滞在して高度順化もでき、いよいよ車で5,000mを超す峠を二つも越えて、平均高度4,500mのチベット高原をひた走ります。途中チョモランマBC(ベースキャンプ)への道を分けてさらに先に進みます。ネパール側のBCと比べると、チベット側はキャンプまでのアプローチが短く、車で入山でき、さらにその上もヤクの利用が可能で輸送に苦労することは少ないようです。車道を走っていて4,700m地点の草原上の丘に、青いケシが咲いているのが見えました。即、ストップをかけて写真タイムとします。車から降りて、トレッキングを開始してからも、青いケシをはじめ、黄色や薄紫、淡紫紅色、暗紅色等と数種類のメコノプシス属の花を見ることが出来ました。

青いケシは、ネパール西部~ブータン、チベット、青海省に分布し、やや乾燥した高山帯の岩礫地や氷河沿いの砂礫地、風にさらされた草地に生えます。全体に長さ7~10mmに達する淡褐色の刺毛が密生します。花は1株に5~20個つき、花弁は青色で5~13枚つきます。ケシ科のメコノプシス属の種類は多く、M.アクレアタ、ワリキー、パニクラータ、ベラ、プリムリナ等があります。その中でも“ブルーポピー”という愛称で呼ばれているホリドゥラがいちばん青色が濃く、神秘的な美しさを持っている気がします。

(撮影:2000.7 チベット, カンシュン谷)

写真とエッセイ 後藤 はるみ

1938年 東京に生まれる
1963年 東京理科大学理学部卒業後、代々木病院検査室勤務を経て東京保健会・病体生理研究所、研究開発室勤務
1978年 東京四谷の現代写真研究所に第3期生として、基礎科、本科1、本科2、専攻科、研究科で7年間写真を学ぶ。
1984年 写真家・竹内敏信氏に師事、現在に至る
1999年 病体生理研究所定年退職

・日本山岳会所属 ・エーデルワイスクラブ会員
・全日本山岳写真協会 会員
・写真展「視点」に3回入選
・全日本山岳写真協会主催の写真展に毎年出品
・その他、ドイフォトプラザ等でグループ展多数