2006年8月号(第52巻8号)

心に残る、山と花

クルマユリ

クルマユリは亜高山帯~高山帯の草地に生える多年草で、茎は30~80 cmくらいになり、茎の中央部付近に6~15枚の葉が輪生します。和名の車百合は茎の中部に輪生する葉を車輪の輻に見立ててつけられたといいます。群生地としては、北アルプス・白馬鑓ヶ岳の中腹にある大出原が有名ですが、私はまだ群落は見たことがありません。しかしこれというほどの高い山でなくても、広い山域で時々見かけられます。たった一株だけでもその濃オレンジ色の花びらを強く反りかえらせた大柄な花はよく目立ち、山の風景を明るくしてくれます。高山植物のスター的存在といえるでしょうか。

8月中旬、北アルプスの蝶ケ岳(2,677m)へは上高地から入り、横尾山荘で一泊をして翌朝、まずは笹原の中の急登から始まります。山名は豊科付近から見える残雪模様が巨大な蝶の姿に似ていることに由来しています。他にも同様の理由から山名がついたものに、白馬岳(代掻き馬-代馬)、常念岳(安曇野の民話に登場する常念坊が徳利を手にしている)、爺ケ岳(種まきじいさん)、五竜岳(甲斐の武田家の家紋である武田菱)等々があります。特に昔の農作業がこれらの雪形を見て田植えをしたり、種まきをしたりという生活をしていたことを思うと、人と山との関わりは、日本の登山がまず信仰登山から始まったことからも生活とかなり密着している事が分かります。

急登の途中に槍見台があり、この日もあの特徴ある槍ヶ岳が見えていました。更に急登を続けて歩き始めてから約4時間で槍ヶ岳、穂高岳連山の絶好の展望台である蝶ヶ岳に着きました。しばらく眺望を楽しんだ後、蝶ケ岳ヒュッテに荷物を置き、カメラを持ってお花畑に散策に出掛けました。ハクサンフウロやキンポウゲ、ウメバチソウもありましたが、大柄な花のクルマユリは一際目立ち、夏の空にくっきりと浮き出る様に咲いていました。

写真とエッセイ 後藤 はるみ

1938年 東京に生まれる
1963年 東京理科大学理学部卒業後、代々木病院検査室勤務を経て東京保健会・病体生理研究所、研究開発室勤務
1978年 東京四谷の現代写真研究所に第3期生として、基礎科、本科1、本科2、専攻科、研究科で7年間写真を学ぶ。
1984年 写真家・竹内敏信氏に師事、現在に至る
1999年 病体生理研究所定年退職

・日本山岳会所属 ・エーデルワイスクラブ会員
・全日本山岳写真協会 会員
・写真展「視点」に3回入選
・全日本山岳写真協会主催の写真展に毎年出品
・その他、ドイフォトプラザ等でグループ展多数