2004年5月号(第50巻5号)

山のスケッチ

焼岳

鉛筆+水彩(40.7 × 31.4cm)

焼岳は穂高とならんで上高地の景観になくてはならないものである。日本では数少ない鐘状火山のひとつだが,完全な対称形ではなく南にやゝながく稜線を引いた形が先ず良い。山腹を深くえぐる幾本もの熔岩流の爪あとがこのドームに立体感を与えている。

頂上付近の赤茶けた岩,褐色の谷の陰影,そして浅緑の笹原と色彩の変化に富み,岩と雪だけの穂高よりむしろ絵になりやすい。

水彩画(とくに淡彩スケッチ)は,どこで筆を止めるかが一番難しい。塗りこみすぎると色は濁り,汚くなって始末がつかなくなる。その意味では油絵とちがって,厳しいいっときの勝負という気がする。

最近の私の旅は大てい家内が一緒だが,退屈してきた彼女にうながされて筆を止めることが出来るのは内助の功とおもっている。この絵もそのひとつ,朝食前に快晴の梓川の河原で三十分あまりで描いた。

スケッチとエッセイ 武田 幹男

昭和7年生まれ
薬学博士元・田辺製薬株式会社 有機化学研究所長 常務取締役
※絵の略歴 定年退職後、 水彩スケッチを始める
山と渓谷社「山のスケッチコンテスト」準特選入賞
2002年、個展を開催 楽風会 所属
※山の略歴 元・関西山岳会会員
現在はネパール・ヒマラヤのトレッキングなどを楽しむ