2004年4月号(第50巻4号)

山のスケッチ

上高地早春

鉛筆+水彩(23.8×19.1cm)

釜トンネルの難工事が完成し,上高地へバスの乗り入れが始まったのは,1933年のことである。当時は年間の入山者が,わずか数百人だったが,今では300万人を超えるといわれている。このバスの運行が始まるのは例年4月下旬だが,その前に沢渡から雪道を半日かけて歩き,早春の上高地に入った。釜トンネルの出口には大きなデブリ(雪崩のあと)が出ていた。

やがて大正池が見えて岩角を曲がると,一挙に雪の穂高連峰があらわれる。いつもながらこの眺めは素晴らしいが,バスの車窓から見るのとは違った圧巻に思わず足を止めてしまう。やはり山は自分の足で歩いて来て眺めるものである。

大正池は一面の雪で人影もない。大正4年の焼岳の大噴火で梓川がせき止められて出来たこの池も,土砂の流入で次第に小さくなり,水中に残る枯れた立木も,今では数えるばかりである。

まだ芽生えしない両岸の樹林の紅味をおびた樺色が美しい。陽がかたむいて,少し風が出て来た。

スケッチとエッセイ 武田 幹男

昭和7年生まれ
薬学博士元・田辺製薬株式会社 有機化学研究所長 常務取締役
※絵の略歴 定年退職後、 水彩スケッチを始める
山と渓谷社「山のスケッチコンテスト」準特選入賞
2002年、個展を開催 楽風会 所属
※山の略歴 元・関西山岳会会員
現在はネパール・ヒマラヤのトレッキングなどを楽しむ