2024年9月号(第70巻9号)

鳥棲む空にて

サシバ

撮影地:千葉県

 サシバという鷹の仲間です。サシバやハチクマと言った一部の鷹は越冬のため東南アジアに渡ります。秋になると普段は群れを作らない鷹たちが白樺峠や伊良湖岬などの経由地に集結し、南の空に向かって一斉に飛び立ちます。これを「鷹の渡り」と呼びます。
 東日本では9 月後半ごろにピークを迎え、経由地である白樺峠は大勢のバーダーで賑わいます。観察ポイントである「タカ見の広場」からの眺望は実に雄大で、乗鞍の山々の稜線から鷹たちが迫り来る様には心が躍ります。とはいうものの相手は自然現象なので台風が直撃したり、天気が良くてもちらほらとしか飛んでくれなかったり、通い始めは外ればかりでした。
 10 年ほど前の秋、遂に大きな渡りに遭遇しました。あちらこちらの山影から鷹たちが次々に湧いてきて、あっという間に広場の上空を埋め尽くしたのです。鷹たちは一続きにぐるぐると旋回しながら上昇し、抜けるような青空に次々と吸い込まれていきました。その日に飛んだ鷹の数はなんと2,500 羽!その年の最高記録だと後で聞きました。その場にいた大勢のバーダーから何度も歓声が上がり、一段落すると同時多発的に拍手も起こりました。この景色に立ち会えたことを見知らぬ者同士が祝福し合った瞬間でした。
 「鷹の渡り」を代表する鷹であるサシバは、2006 年には絶滅危惧Ⅱ類とされました。その理由の一つが棲み処である里地里山の荒廃と考えられています。6 月号の編集後記に美濃部氏が土地の劣化について書かれていましたが、わが国でも気候変動や森林伐採、さらには耕作放棄による土地の劣化が生物多様性を危機にさらしています。
 「鷹の渡り」は秋の季語です。日本の秋の風物詩を次世代に残したいと心から願ってやみません。

写真とエッセイ  佐藤 秀樹

<所属>
獣医師 日本毒性病理学会認定病理学専門家
テルモ(株)R&Dテクニカルアドバイザー

<プロフィール>
テルモ湘南センター 元主席研究員
テルモバイオリサーチセンター 元センター長
人口血管、ステント、イメージングデバイスなど、種々の医療機器の研究開発に従事。

写真は20代の初めの頃、当時お世話になっていた国立衛生研究所の室長に薦められて。モチーフは主に風景と鳥。
記憶している最初のカメラは、キャノンEOSシリーズの1号機、EOS650。
現在使っているカメラはNIKONで、購入したのはつい最近のこと。
それまで使っていたカメラとレンズ資産を手放して購入し、現在は望遠レンズ購入を検討している。

撮影のモットーとしては、デジタルカメラで撮影の際は、多少ピントが甘くても、その瞬間を逃さずシャッターを切ることが大事だと思っている。