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2024年8月号(第70巻8号)
こちらはハヤブサです。急降下時の最高速度は時速320km(200 マイル)以上とも言われ、世界最速の動物とされています1)。ハヤブサはこのスピードを活かして鳥を狩りますが、この時期の湘南では大磯の照ヶ崎海岸に大挙して飛来するアオバトもその対象になります。アオバトの大群を観察するため、我々バーダー(=バードウォッチャー)も炎天下の海岸に集まりますが、数年前、その目の前で一羽のハヤブサがアオバトの群れに襲い掛かりました。
アオバトが海水を飲みに来る理由はミネラル摂取と考えられていますが2)、そのために波に飲まれ、命を落とす個体もいます。そんなアオバトの苦労を知っているので、我々は当初アオバトに味方しました。
襲い掛かったハヤブサはまだ若く、狩りが下手でした。急降下してアオバトの群れに襲い掛かりますが、空振りばかりで、仕留めるには至りません。それでもハヤブサは何度も何度もアタックし続けました。その必死さを目の当たりにするうちに、バーダーたちは逆にハヤブサを応援したくなってきたのです。「がんばれ!」「あともう少し」と、あちらこちらからハヤブサへの声援が聞こえてきました。
そして遂にハヤブサの時速320km のキックがアオバトに命中しました。アオバトは思い切り海面にたたきつけられ、その爪の餌食にされてしまいました。ハヤブサはアオバトを大事そうに抱きかかえ、嘴でその羽をむしりながら飛んでいきます。むしられたアオバトの緑の羽根がキラキラ光る海面に飛散して、それは美しくも残酷な光景でした。一方、ハヤブサの衝撃的な狩りに圧倒されたバーダーたちは、遠ざかる二つの影を見送りながら、自分たちの浅はかさを恥じたのでした。
1) Encyclopaedia Britannica. “peregrine falcon.” Encyclopaedia Britannica, Inc., 13 June 2024. https : //www.britannica.com/animal/peregrine-falcon
2) 加藤ゆき.アオバトのふしぎ.自然科学のとびら2019;25(2).11-12. https : //nh.kanagawa-museum.jp/www/pdf/tobira46_all.pdf
<所属>
獣医師 日本毒性病理学会認定病理学専門家
テルモ(株)R&Dテクニカルアドバイザー
<プロフィール>
テルモ湘南センター 元主席研究員
テルモバイオリサーチセンター 元センター長
人口血管、ステント、イメージングデバイスなど、種々の医療機器の研究開発に従事。
写真は20代の初めの頃、当時お世話になっていた国立衛生研究所の室長に薦められて。モチーフは主に風景と鳥。
記憶している最初のカメラは、キャノンEOSシリーズの1号機、EOS650。
現在使っているカメラはNIKONで、購入したのはつい最近のこと。
それまで使っていたカメラとレンズ資産を手放して購入し、現在は望遠レンズ購入を検討している。
撮影のモットーとしては、デジタルカメラで撮影の際は、多少ピントが甘くても、その瞬間を逃さずシャッターを切ることが大事だと思っている。